アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一
【302号室 藤井祐一(3)】−『平田健の事情』−
「ぐっ…ぁ、はぁっ、はぁっ」
目の前の男が悶絶して、胃の中身を吐き出すのに合わせて、少年は自らの動きを止めた。
顔面に一発、最初の一撃だけ食らったせいで口の中がひどく切れている。
少年は口元から溢れる血を、グローブで拭った。
それから、周囲を見回す。
壁際には、ひどい怪我をして気を失っている、先輩。
そして、目の前には先輩に執拗な『指導』を行い気絶させた男が低く漏らす、悶絶。
周囲からは賞賛の視線とともに恐怖と半々の割合で浴びせられる、罵声。
誰かが叫んだ。
「誰か、保健の先生と救急車呼んでこい!!」
作品名:アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一 作家名:辻原貴之