アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一
そして少年は『祐一』に戻る
少年は家族の気配が『視えない』場所へ移動すると、早々にGPS携帯を手にとった。
その筋への連絡用に準備していたもので、各連絡先への番号は『色』として暗号化済み。
それを『トランスレイション』することで使用する、自分専用のものである。
機材は中国に連絡を入れて入手し、アドレスの番号は絵文字に変換済み。
普通の人間が見ても記号と絵文字しかアドレス帳に入っていない携帯電話だ。
その中の一つを確認し、少年はあるアドレスを直接入力する。
ナンバーロックの上に履歴は削除するように既に改造済みだ。
「ジェニオ、俺だ」
『おぅ、ユウじゃないか。こんなに早く何の用だね?別れてからまだ数カ月だぞ?』
「責任をとってもらおう」
『何年か前にも聞いた気がするな。そのセリフ』
少年が再び『藤井祐一』になるまで、あと十八時間。
藤井祐一がアインシュタイン・ハイツに入居するまで、後二ヶ月。
【302号室 藤井祐一(2) END】
作品名:アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一 作家名:辻原貴之