アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一
章間 −ささやく−
「正直、死んだと思ったよなぁ」
祐一は今はもう僅かにしか残っていない開頭手術の痕をなぞる。
再生医療の進んだ施設で治療を受けたこともあり、銃創痕も開頭手術の痕も髪が伸びてくる頃にはすっかり隠れてしまった。
ホントに、どうなっちまってるんだこの体は。
これは後に『知人』に教えられたことだが、通常、人間の脳は自らの能力を『身体が壊れない程度に』制御して活用するように出来ているらしい。
しかし、祐一は一旦脳が破壊されたため、故障した脳の一部を脳の他の部分が補おうと修復しているうちに、人間としては特殊な『感覚』を保有すると共に『通常は脳が掛けている自らへのリミッターを外す力』を手に入れてしまったらしい。
「でもまぁ、あの時は必死だったよなぁ」
祐一は、自分の過激な行動に苦笑しながら、再び思考を巡らせる。
作品名:アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一 作家名:辻原貴之