Paff(仮)
全員が着席するのを待ってから、2年生の時と同じ担任が言った。いつもならすぐに出席の確認に入るのに、今日は何かあるのだろうか。
「みんなに新しい仲間を紹介する。おーい、入ってきてくれ」
転校生?こんな時期に?教室中がざわめいた。
ガララッ。
大きな音をたてて、教室の扉が開いた。そして、一人の男子生徒が教室の中に現れる。ヒカリは、彼に見覚えがあった。
「じゃあ、自己紹介をよろしく」
転校生が教壇の中央に来るのを待って、担任が言った。彼は「はい」と肯き、みんなに顔を向けた。
「緑川リュウタロウです。よろしくお願いしますっ」
ペコリ。緑川という少年は頭を下げた。
緑川・・・リュウタロウ?
「・・・・・・」
ヒカリには、リュウタロウという少年の顔に見覚えがあった。昔のことではない。つい最近、会ったことがあるような。
「あーーーーーっ!」
あまりの衝撃に、ヒカリは叫んでしまった。教室中の視線が、ヒカリに集中している。もちろん、転校生も。
「あっ、ヒカリぃーーっ」
リュウタロウは教壇を降りてヒカリに気づくと、走ってそのままヒカリに抱きついてきた。
「会いたかったよ、ヒカリっ」
「ちょ、あなた、ドラゴン?なんでここに・・・むぐっ」
ヒカリは最後まで言葉を続けられなかった。
なんとリュウタロウがヒカリにキスをしたのだった。その瞬間、「きゃあっ」とか「うおぉ」とか「ヒュー」とかクラスメイトの驚きの声が聞こえた気がしたが、ヒカリの頭は真っ白になってそれどころではなかった。
「な、な、なにするのよ!ていうか、なんであなたがここにいるのっ?」
無理やりリュウタロウを引き離したヒカリは、顔を真っ赤にして叫んだ。するとヒカリの頭の中で、懐かしい声が響く。
『元気そうね』
「ち、仲介者?」
『彼がどうしてもあなたに会いたいって言うから、魔法で人間に変身させて連れてきたの。ついでにこの学校への転校生としての入学手続きも済ませておいたわ。これからも、彼をよろしく』
「ま、マジで?」
ヒカリはリュウタロウを見た。視線が合うと、リュウタロウは満面の笑顔を浮かべた。どうやらマジらしい。
「え・・・」
ヒカリの顔が一気に青ざめた。マヤが、さっきから目をキラキラさせてこちらを見ている。
「えええぇぇーーーーーーっ?」
たぶんその時、校舎が揺れたと思う。
♪
長い。
どれくらい眠り続けていたのだろう。
10年?それとも100年?
もしかしたら、もっと長かったかもしれない。
眠りにつく前、僕はひどく傷ついていた。
忘れたい。
でも、忘れちゃいけない。
ただ、いつかふと思い出した時、笑い飛ばせるようになれたらいいなと思う。
ただ、いつかふと思い出した時、僕を守ってくれた人にありがとうと言えたらいいと思う。
僕をあそこから連れ出してくれた人を、僕のこれからの全てを賭けて、その人を守ると誓います。
おしまい