八峰零時のハジマリ物語 【第二章 007】
【007】
――次の日の朝。
俺は寝てる間に『潜在意識』の中で、シッダールタからいろいろと「事の経緯」や「今後のこと」を教えてもらった。
何だかよくわからないことだらけではあるが、少なくとも「自分は一度死んでいる」ということ、それと「シッダールタの力の回復の手伝いをする」ということだけはわかった。
現在は、俺の身体の中に「シッダールタ」がいるのだが、普段の生活は前と同じでシッダールタが出てきたりすることはない……と思っていたがそうではなかった。
自称、「人間界オタク」のバカ(シッダールタ)は、事あるごとに俺に話しかけてくるので、はっきり言ってうるさい。
《『うるさい』とか、そんな冷たいこと言うなよ~零時くん》
「わかった――ウザイ!」
《もっと、ひどくなってるし!》
こんな感じだ。
「お前さー、そんな何度も俺に話しかけても大丈夫なわけ?」
《? 何が?》
「いや、魔界の悪魔に見つからないのか? てこと」
《ああ。それは大丈夫。だってこの会話は別に力を使っているわけじゃないしね》
「そうなの?」
《ああ。力ではなく、仕組みというか、その~まあ『法則』みたいなもんかな?》
「法則?」
《ああ。君たち人間は言葉でしゃべるだろ? そこに力はほとんど必要としてないだろ? まあ厳密に言えば力を使っていると言えるが、まあ、普通はそんなの意識しないものだろ?》
「ま、まあな」
《それと一緒。ワタシたちは『言葉』ではなく、君たち人間界で言うところの『テレパシー』に近いもので会話をしている。それは君たち人間が『言葉』を使うくらい当たり前に、ね》
「へ、へえ」
《だから会話くらいでは、別に魔界の悪魔には見つからない》
「なるほど」
そんな感じで、俺はシッダールタと会話しながら学校へと向かっていた。
しかし周囲から見ればただの「ひとり言」のようなものなので、当然、周囲の生徒からは、
「お、おい……あいつ何かひとり言しゃべりまくってるぞ」
「しぃーっ! 顔も怖いし、なんか危なさそうだから無視しろ、無視っ!」
と、言っているような顔をしながら、俺から距離をとって歩いていた。
すると、そんな「危なさそうな俺」は、後ろから声をかけられた。
「おっす、零児。どうした? ひとり言なんかして。頭に後遺症か何か残ってんのか?」
昨日、事件について俺に気をつかってしゃべっていたと思ったが、どうやら高志はそうでもなかったらしいということに落胆をしつつ、でも、ちょっと気が楽になった俺は、
「お前な~、ちょっとくらい気を使った発言ができないのかよ?」
と、冗談交じりに返した。すると、
「知るか。もう学校に来るってことは元気になったんだろ? なら、もういつもどおりでいいじゃねーか」
と、気軽に、でも、すごく気持ちが暖かくなる言葉を返してくれた。
――が、もちろん、そんなことコイツに言えるわけないので、
「ふ、ふん。お、お前は相変わらず……相変わらずだよな~」
と、嘯いた。
「何、『相変わらず』二回言ってんだよ。意味わかんね」
「う、うっせ」
そうして俺と高志は、いつもの通学路を、いつもと変わらない「くだらない会話」をしながら歩く。
「零時、高志、おはよう!」
「おう」
「よっ!」
遊馬は、今日は朝練だったらしく早めに学校に来ていた。
「なんだ? 大会近いのか?」
「ああ、う……うん。まあね」
「?」
何となく――だが、「歯切れの悪い答え」のように感じた。
「遊馬……何かあったのか?」
「べ、べつに……何もないよ」
「?」
ますます「歯切れの悪い答え」だったので、さらに詰め寄った。
「本当に何もないのか?」
すると、遊馬は「キッ!」と目を鋭くさせ、逆に詰め寄られた。
「零時、いつから女性の知り合いなんてできたの?」
「はっ?」
「何っ?」
俺は遊馬の言っていることの意味がわからなかった。
高志は単純にバカな期待をした反応だった。
「さっき二人が来る前に、女性が尋ねてきて零時のこと探してたんだよ」
「!?」
まさか……新手の追っ手、か?
《いや、そうではないだろう。そんな気配はしない》
シッダールタが答えた。
び、びっくりした! 聞いてたのかよ?
《当然だ。お前の『心の声』はワタシにすべて届く。それにしても……》
「?……それにしても?」
《予想だが、これはおそらく……》
すると、教室の入口から零時を呼ぶ声がした。
「あ、零時くん!」
「!?」
だ、誰だ?
俺を呼んだその女の子は、小柄で少し頼りない感じで、男なら誰もが「守ってあげたい」と思わせるような、そんな女の子だった。
「れ・い・じ・くん……だぁあぁ?」
遊馬が普段とは少し違った「黒いオーラ」と「口調」でその女の子に向かって「威嚇」していた。
どうしてお前が「威嚇」する? やっぱり遊馬の反応はいろいろとおかしいが、そこは触れないようにした。
「お、おい、零児。お前……舞園利恵(まいぞのりえ)とどういう関係だよ?」
「舞園……利恵?」
「た、高志! 『どういう関係』ってそんな言い方……どういう関係なの? 零時。詳しく聞かせて」
《はっはっは……お前の友人、面白いな》
シッダールタ、お前はちょっと黙ってろ。
「ちょ、ちょっと待てよ。お、落ち着け……特に、遊馬」
「そ、そんな。零時はいつもそう……ボクの気持ちをわかってて」
「……何の話かよくわからないし、わかろうとも思わないし、とりあえず落ち着け」
「遊馬のことはいいんだよ。零時、お前、『あの舞園利恵』を知らねーのか?」
「だから何者なんだよ?」
高志と遊馬が俺にいろいろと詰め寄っているところに、その女の子(舞園利恵?)が割り込んで入ってきたと思うやいなや、いきなり俺の左手首を掴み、そのまま強引に俺を引っ張っていき教室から飛び出した。
「「えっ?」」
高志と遊馬はその光景に唖然としていた。周りも似たような感じだった。
こうして退院まもない零時は「初対面?」の女の子……「舞園利恵」により、言うなれば「拉致」されたのであった。
「ご、ごめんなさい、零時くん!」
「お、おう。少しビックリしたけどよ。だって、そんな子には……見えなかった……から」
俺は、屋上の扉の前まで「拉致」されていた。
「と、ところで……お前、誰だよ?」
「えっ?」
そう言うと、その女の子は一瞬、戸惑った顔を見せたが、すぐに我に返り、
「あ、すみません、でした。わたし『舞園利恵(まいぞのりえ)』と言います。零時くんと同じ一年生でクラスは一組です」
と、舞園は簡単な自己紹介をしてくれた。
「お、俺は……」
「八峰零時くん、ですよね?」
「ど、どうして俺の名前を? て言うか舞園はどうして俺のこと知ってんの?」
「そ、それはですね……秘密です」
「へっ?」
「ふふっ。今は秘密です。それより……」
と、少し悪戯っぽい顔を見せた後、舞園は改めて真顔に戻った。
「実は、零時くんにご相談が……あるんです」
「!?」
《やはり、な》
シッダールタ。
《そんなオーラをこの子から感じたんでね。もしかしたら……と思ったが》
作品名:八峰零時のハジマリ物語 【第二章 007】 作家名:mitsuzo