墓
この街の静けさは全て偽りかもしれない。この街は絶え間ない腐敗臭と腐敗汁と腐敗音で取り巻かれているかもしれないのだから。雨が私からそれを隠しているだけかも知れないのだ。
この雨は―
醜いものを包み隠して。
汚いものを洗い流して。
薄汚い音を掻き消して。
―いるかもしれないのだ。
早くこんな街からは出てしまおう。
雨が止まない内に。
それにしても、雨が止んだらこの街は一体どんな様相を呈するのだろうか。
普通の街なのかも知れない。
腐った死体なんて何処にもないのかも知れない。
私が、勝手に想像しているだけなのかも知れない。
別に確かめようとは思わない。あの建物が死体を包み隠しているかなど、本当はどうでもいいのだから。
いや、恐怖しているのかも知れない。
あの建物の中に崩れた死体が在るという、その可能性に私は慄いて、それを隠すために強がっているのかもしれない。
なんて嫌な街だろう。どうして私はこんな薄汚い街を歩いているのだろう。
早く出てしまおう。
(了)