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真冬の幻 第1章『メルトダウンする世界』

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 不意に気配を感じた。いや、気配どころじゃない。彼らはそこにいた。彼らが来た目的ははっきりしている。殺気というものはあまり隠せるものじゃないが、彼らはそもそも全く隠す気などないようだ。仮面を被り、頭をフードつきのコートですっぽり覆った三人組は無言で私と隣の男を取り囲んでいる。彼は何が起こったのか分からず、ただ茫然と三人を見ている。
 これから起こることを、私は全て知っている。もう二度とさっきのように笑い合えないことを私は知っている。もう自分のことはどうでもよかった。だけど、一つだけ私は大失態を演じてしまっていた。私がこの道を歩いていたのは誰も巻き込まないためだった。だが、私は巻き込んでしまった。このたった今知り合ったばかりの優しい青年を。

 青年が息絶える。ほんの一瞬の早業だ。そして数秒後、私も彼の後を追うことになるだろう。しかしその時私の頭の中にあったことは、絶望などではなかった。それは心残りだった。私にはまだやらなければならないことがある。それをやり終えるまでは死ねない。
 身体が倒れる。起き上がる力は残っていない。それでも尚死ねない。だから私はこの力を使うことにした。色んな人の人生を狂わせた私が、更に多くの人の人生を狂わせようとしている。それでもやり遂げたいことがあった。彼ならそれを分かってくれると直感的に分かった。だから彼に委ねようと思う。私の願いを忘れてしまってもいい。そのまま楽しく生きてくれてもいい。だけど、こんな人間が、こんな想いを持っていたということだけでも気付いてほしい。だから、お願い……。こんな私の、最後の我儘を聞いてください。
 「大好きよ…………」
 そして、私の意識は闇へと墜ちていった。