入道雲と白い月3
首を振ると、父は小さく首をかしげる。
「じゃあ、お礼かなあ? 雛、あの人のお手伝いしたんだよね」
「うん」
雛の目の前から、みるみる二人は遠ざかっていく。すぐに、表情もわからなくなるほど小さくなってしまった。
車内の親子は三人とも同じように、見送る二人を見やっていた。ぽつりと吉城が呟く。
「見られてよかった。贅沢言うなら、ちゃんと会いたかったけど」
それを父が拾う。
「また来るんだから、その時紹介してもらえばいいよ。ね、雛」
「え?」
振り返ると、父と兄がそろって雛を見ていた。一瞬ぽかんとしたものの、すぐに言われたことを理解し、自然と笑みがこぼれる。
「うん! わたしも紹介したいし、また来たい!」
父が笑い、兄も笑う。雛はますます嬉しくなって、笑みを顔全体へと広げた。
バスと左近たちとの距離が遠ざかっていく。互いが見えなくなる刹那、雛はもう一度振り返ってみた。
『待ってるよ』
朧に見えた左近の唇が、そんな言葉を紡いだ気がした。
終