ウォーズ•オブ•ヘヴン 01-1
白銀の闘志
orange in…
「ああーーーー怠い!!」
外は一面白銀の世界で、生きるもの全てを拒んでいる様にも見えた。考えるだけで自分もさむくなりそうだ。
12月の終わりごろ、ちまたではこの季節、冬休みシーズンといったところだろう。残されたクリスマスのイルミネーションも、通学路にちらほら見られた。
しかし、橙田玲慈は教室にいた。もちろん、補習につかまっているのである。相変わらず首にマフラーを巻き、さらにオンボロの暖房も効いているこの教室だが、冬の教室に生徒と教師だけならやはり寒いであろう。
その寒さは、彼のやる気を根こそぎ持っていっているらしい。彼は問題を半目で見ながら、うとうと眠りにつこうとしていた。
バシッ!!
「ふがっっ?!」
突如、目の前から彼の額のど真ん中に投げつけられたのはチョークだった。脳天を射抜かれた彼は反り返ってイスから転げ落ちた。
「なに寝てるんですか?寝ちゃダメですよ!絶対!先生怒っていますからね!」
「うがぁ……」
目の前に立っている先生は教卓に両手をつく。
怒っている様に感じないが、この先生は俺の担任、朝霧真那(あさぎりまな)。割と身長はあるし、力も驚くほど強いが、なぜか敬語口調で優しい声というギャップだらけの先生だ。そのため、よく怒られるが、本当は全く怖いと思っていないのは秘密だ。そして、ちなみに…巨乳だ。
「なんで寝たんですかっ?十文字以内で答えろっ!!」
…時々こんな無茶ぶりが飛んで来ることもあったりする。
「え…ねむかったからでしょ。」
「理由になってないです!あと、橙田君に無視されたら、寂しいですよ…」
「…ぅわかったよせんせー!ううん寝ない!寝ないよ!せんせー!」
「…うん。よろしいのです!それなら、次行きますよー?」
何が目的かはよくわからないが、思っていることをとにかく口に出す。
純粋な先生だ…。そのせいで余計邪心を感じない怖さがある。
「せんせー。待って。俺ってなんで補習な訳?時間もったいないっす!」
「何いってるんですか!!橙田君が魔法を一つも使えないからでしょー?!知ってるくせに!」
全く、情けない限りだった。
そう、俺は天使のくせに魔法が使えない。99%の天使は魔法が使えるのに、そのわずか1%の入りたくも無いスキマに入ってしまっているのだ。
そのせいで、無意味で使えない魔法の知識や技術を何度も何度も教わらなければならない。例え使い方が分かっても、俺の力では操ることさえできないのに。
関心が無いように、ペンを回して応える。
「えー。僕、魔法の使い方、わからないの。というよりMPは元から所持していないのですがこれはど」
「だから橙田君は成長しないんです!ランクあがりませんからね??!」
あまりに速い返答に驚きつつ、橙田本人もランクが上がらない現実には困ったものだった。
「あっ、それとも、課題終わるまで部屋に閉じ込めておいてあげましょうか?」
閉じ込める意味がわからん。
「カンベンシテクダサイ。」
かたことの日本語で答えた、その時だった。
ガチャン…
いきなりドアの開く音がした。
そこに立っていたのは…
「あっ、ノックせずに入っちゃダメですよっ!」
眩しい閃光。白の少年。
瞬間の出来事。
白の少年が口を開いた。
「【天使の威光】エンジェリック•グロウ…!」
「んっ?!」
バキッっっ!
剣と剣の交わる音。衝撃波が空を切り、窓ガラスを数枚ブチ割った。
白の少年は剣を引き抜くと同時、光速で橙田玲慈に迫り、切り裂こうとしたのである。
しかし、橙田玲慈は一瞬でヒラリと身をかわし、その瞬間自らの剣を引き抜き、ありったけの力をぶつけたのだ。
ギリギリと刃が嫌な音を立てる。
「何者だ…っテメェ…!」
「これが…橙田玲慈…ねぇ。」
「何しに来やがった!」
白の少年は、剣を持つ力を緩めた。
「紹介が遅れたね……。僕の名前は白鷹翼揮(しろたかつばき)って言うんだ…よろしく。先に要件だけ伝えておいて良いかな?」
「…剣ぶつけられて黙ってられるとでも思うのかよ。」
「まぁ…少し落ち着いてくれ…【極夜の月輪】ダークスクレイパー使いさん?」
「なっ…?なぜその名前を??!」
【極夜の月輪】。ダークスクレイパーと呼ばれるその武器は、間違いなく俺が天界に来た時知らずに持っていたもので、カマのように大きく曲がっている太刀だ。
これが俺の手にわたった経緯も、どこで誰に作られたのかもわからないが、なかなか見かけない様な剣らしく、物珍しく見られたり、ひどい時には盗難にあいそうになったりする。
この剣は俺との相性が良く、これを使うには代償として魔力を封じてしまうデメリットがあるらしい。が、俺は元から魔法なんて使えやしないから、俺には好都合な剣なわけだ。
…まさか……。
「はっ…まさかお前もこの剣の魅力に釣られて出てきた奴か?」
「…ふっ……面白い推理だね。だけど僕はそんなやつらとは違うんだ。…まあいい。理由は後だ、とにかくここで暴れると、あの先生にも教室使う人にも失礼だろう。外に出ようか…。」
「って、お前が襲って来たんだろうが……。」
白鷹はその言葉を聞かずに外へ歩き出した。
橙田も遅れて歩き出した。グレーの寒空の下。周りを埋める一面の銀世界は、生きるもの全てを拒む。ここに立ち入るなという警告だったのかもしれない。
その誰かの警告も届かず、2人は外に出る。
「ふぇ…?」
朝霧先生ただ1人だけが情けない声を出して小さくなっていた。
white out…
意外にも、雪はさらに強さを増していった。その視界の悪さは半端なものでは無く、わずか20mほどの距離。その短い間隔ですら見づらい状態だった。
嫌な天気だ…。
白の少年は、雪を嫌う。対峙する相手に聞こえないほどの小声で呟いた。
相手は、予想も出来ない、未知の実力の持ち主。絶対に油断はできないし、負けたら潰される可能性がない訳じゃない。
しかし…あいつを殺してはならない。
まず、殺せばアルカンゲロスなんて位からは切り落とされる。ついでに退学にされるだろう。任務も遂行できない惨めで弱いやつだと、思われるだろう。
だから…確実に相手を降伏させるんだ。
「橙田玲慈。君のその【極夜の月輪】の力、全部見せてもらおうか。」
「ああ。望むところだ。…ルールはどうする?」
「もちろん、《不屈の聖戦》…だろ?」
《不屈の聖戦》…。その名の由来は遥か昔。2つの強国同士の聖戦で、1つのある国が残り1人になるまで追い詰められた。それでもなお諦めず戦い続けた英雄がいた。
その英雄は降参することもできた。勝ち目が無いこともわかっていた。
しかし、プライドを守るため英雄は戦いを挑んだ。
最後には呆れた相手の長が英雄を刺し殺したという伝説から、片方が降伏したらその時点で試合終了。しかし、相手の敗北が確実に決まった場合に相手が降伏しないとき、もしくは故意でなければ殺害が許される、死と隣り合わせの聖戦だ。
お互いにとって、危険な賭けだった。
どちらかが死ねば、終わりだ。
orange in…
「ああーーーー怠い!!」
外は一面白銀の世界で、生きるもの全てを拒んでいる様にも見えた。考えるだけで自分もさむくなりそうだ。
12月の終わりごろ、ちまたではこの季節、冬休みシーズンといったところだろう。残されたクリスマスのイルミネーションも、通学路にちらほら見られた。
しかし、橙田玲慈は教室にいた。もちろん、補習につかまっているのである。相変わらず首にマフラーを巻き、さらにオンボロの暖房も効いているこの教室だが、冬の教室に生徒と教師だけならやはり寒いであろう。
その寒さは、彼のやる気を根こそぎ持っていっているらしい。彼は問題を半目で見ながら、うとうと眠りにつこうとしていた。
バシッ!!
「ふがっっ?!」
突如、目の前から彼の額のど真ん中に投げつけられたのはチョークだった。脳天を射抜かれた彼は反り返ってイスから転げ落ちた。
「なに寝てるんですか?寝ちゃダメですよ!絶対!先生怒っていますからね!」
「うがぁ……」
目の前に立っている先生は教卓に両手をつく。
怒っている様に感じないが、この先生は俺の担任、朝霧真那(あさぎりまな)。割と身長はあるし、力も驚くほど強いが、なぜか敬語口調で優しい声というギャップだらけの先生だ。そのため、よく怒られるが、本当は全く怖いと思っていないのは秘密だ。そして、ちなみに…巨乳だ。
「なんで寝たんですかっ?十文字以内で答えろっ!!」
…時々こんな無茶ぶりが飛んで来ることもあったりする。
「え…ねむかったからでしょ。」
「理由になってないです!あと、橙田君に無視されたら、寂しいですよ…」
「…ぅわかったよせんせー!ううん寝ない!寝ないよ!せんせー!」
「…うん。よろしいのです!それなら、次行きますよー?」
何が目的かはよくわからないが、思っていることをとにかく口に出す。
純粋な先生だ…。そのせいで余計邪心を感じない怖さがある。
「せんせー。待って。俺ってなんで補習な訳?時間もったいないっす!」
「何いってるんですか!!橙田君が魔法を一つも使えないからでしょー?!知ってるくせに!」
全く、情けない限りだった。
そう、俺は天使のくせに魔法が使えない。99%の天使は魔法が使えるのに、そのわずか1%の入りたくも無いスキマに入ってしまっているのだ。
そのせいで、無意味で使えない魔法の知識や技術を何度も何度も教わらなければならない。例え使い方が分かっても、俺の力では操ることさえできないのに。
関心が無いように、ペンを回して応える。
「えー。僕、魔法の使い方、わからないの。というよりMPは元から所持していないのですがこれはど」
「だから橙田君は成長しないんです!ランクあがりませんからね??!」
あまりに速い返答に驚きつつ、橙田本人もランクが上がらない現実には困ったものだった。
「あっ、それとも、課題終わるまで部屋に閉じ込めておいてあげましょうか?」
閉じ込める意味がわからん。
「カンベンシテクダサイ。」
かたことの日本語で答えた、その時だった。
ガチャン…
いきなりドアの開く音がした。
そこに立っていたのは…
「あっ、ノックせずに入っちゃダメですよっ!」
眩しい閃光。白の少年。
瞬間の出来事。
白の少年が口を開いた。
「【天使の威光】エンジェリック•グロウ…!」
「んっ?!」
バキッっっ!
剣と剣の交わる音。衝撃波が空を切り、窓ガラスを数枚ブチ割った。
白の少年は剣を引き抜くと同時、光速で橙田玲慈に迫り、切り裂こうとしたのである。
しかし、橙田玲慈は一瞬でヒラリと身をかわし、その瞬間自らの剣を引き抜き、ありったけの力をぶつけたのだ。
ギリギリと刃が嫌な音を立てる。
「何者だ…っテメェ…!」
「これが…橙田玲慈…ねぇ。」
「何しに来やがった!」
白の少年は、剣を持つ力を緩めた。
「紹介が遅れたね……。僕の名前は白鷹翼揮(しろたかつばき)って言うんだ…よろしく。先に要件だけ伝えておいて良いかな?」
「…剣ぶつけられて黙ってられるとでも思うのかよ。」
「まぁ…少し落ち着いてくれ…【極夜の月輪】ダークスクレイパー使いさん?」
「なっ…?なぜその名前を??!」
【極夜の月輪】。ダークスクレイパーと呼ばれるその武器は、間違いなく俺が天界に来た時知らずに持っていたもので、カマのように大きく曲がっている太刀だ。
これが俺の手にわたった経緯も、どこで誰に作られたのかもわからないが、なかなか見かけない様な剣らしく、物珍しく見られたり、ひどい時には盗難にあいそうになったりする。
この剣は俺との相性が良く、これを使うには代償として魔力を封じてしまうデメリットがあるらしい。が、俺は元から魔法なんて使えやしないから、俺には好都合な剣なわけだ。
…まさか……。
「はっ…まさかお前もこの剣の魅力に釣られて出てきた奴か?」
「…ふっ……面白い推理だね。だけど僕はそんなやつらとは違うんだ。…まあいい。理由は後だ、とにかくここで暴れると、あの先生にも教室使う人にも失礼だろう。外に出ようか…。」
「って、お前が襲って来たんだろうが……。」
白鷹はその言葉を聞かずに外へ歩き出した。
橙田も遅れて歩き出した。グレーの寒空の下。周りを埋める一面の銀世界は、生きるもの全てを拒む。ここに立ち入るなという警告だったのかもしれない。
その誰かの警告も届かず、2人は外に出る。
「ふぇ…?」
朝霧先生ただ1人だけが情けない声を出して小さくなっていた。
white out…
意外にも、雪はさらに強さを増していった。その視界の悪さは半端なものでは無く、わずか20mほどの距離。その短い間隔ですら見づらい状態だった。
嫌な天気だ…。
白の少年は、雪を嫌う。対峙する相手に聞こえないほどの小声で呟いた。
相手は、予想も出来ない、未知の実力の持ち主。絶対に油断はできないし、負けたら潰される可能性がない訳じゃない。
しかし…あいつを殺してはならない。
まず、殺せばアルカンゲロスなんて位からは切り落とされる。ついでに退学にされるだろう。任務も遂行できない惨めで弱いやつだと、思われるだろう。
だから…確実に相手を降伏させるんだ。
「橙田玲慈。君のその【極夜の月輪】の力、全部見せてもらおうか。」
「ああ。望むところだ。…ルールはどうする?」
「もちろん、《不屈の聖戦》…だろ?」
《不屈の聖戦》…。その名の由来は遥か昔。2つの強国同士の聖戦で、1つのある国が残り1人になるまで追い詰められた。それでもなお諦めず戦い続けた英雄がいた。
その英雄は降参することもできた。勝ち目が無いこともわかっていた。
しかし、プライドを守るため英雄は戦いを挑んだ。
最後には呆れた相手の長が英雄を刺し殺したという伝説から、片方が降伏したらその時点で試合終了。しかし、相手の敗北が確実に決まった場合に相手が降伏しないとき、もしくは故意でなければ殺害が許される、死と隣り合わせの聖戦だ。
お互いにとって、危険な賭けだった。
どちらかが死ねば、終わりだ。
作品名:ウォーズ•オブ•ヘヴン 01-1 作家名:冬葉一途