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リンドウノミチヤ
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KYRIE Ⅲ  ~儚く美しい聖なる時代~

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第3章 降臨~Kyrie 1~




 庭園跡に残された地下通路の入口は程なく見つかったが、そこからが苦難の道程となった。通路は洞窟さながらに陰鬱で足場は悪く、男達は小さな灯りのみを頼りに無言で駆けた。ふいに通路が開けた。彼等は地下の大広間に足を踏み込んでいた。巨大な貯蔵部屋らしかった。中央には大きな酒樽が鎮座しており、岩をくり抜いて作った貯蔵庫と棚があった。そして周りの岩肌にはまるで蟻の巣のように幾つかの出口が開いていた。

「畜生、道が分かれているなんてあの女は言わなかったぞ?秘書失格だ」

 ドラジェンは灯りで周囲を調べつつ忌々しげに呟いた。

 突然、統也のすぐ横の岩肌が動いた。黒い頭が覗き屈強な身体つきの中年男が隠し扉を開け広間に現れた。
 いきなりの遭遇に一瞬、彼等は唖然としたまま固まる。動きが早かったのは統也だった。相手が銃を構える前に男の腹に蹴りを入れる。肋骨が折れる音がし、屈強な筈の男の体は人形の様に飛んだ。ドラジェンは目を見開いた。統也は男の首を締め上げれ岩肌に押さえ付けその耳元で一言二言聞いた。男は首を降る。統也は彼の口を塞いだ。骨の一部が再び折れる音が聞こえ洞窟の広間にくぐもった呻きが響いた。統也は更に力を込めた。男は痛みに我を忘れつつ叫び崩れ落ちた。

「おいおい、随分と容赦しねえな」

 ドラジェンはニヤニヤとしつつ失神した男の身体を探る。そして無表情になるとその頭に銃口を向けた。統也はかぶりを降るとドラジェンを制し、倒れたままの男を靴紐で縛り上げ貯蔵庫の一つに押し込めた。見せ場を奪われたドラジェンはあからさまに舌打ちしてみせた。

「ボーイスカウトのキャンプじゃねえんだぜ?」

 統也は気にする風でもなく洞窟の通路を見渡す。

「ここで時間を食ってる暇はない筈だ。二手に別れよう、辿り着いた方が夫人を助ける」

「あいつらに見つかっても俺たちの事を喋るんじゃねえぞ」

 気の収まらないドラジェンは口の中で悪態をついたが確かに選択肢も時間も残されていなかった。部下に指示を出したドラジェンは、先に一人行く統也を振り返った。

 素人然としているが、あの常人離れした体躯と力は滅多に遭遇出来るものではない。 

 雪の女王の忠実な番犬。

 そんな言葉がふと浮かんだ。あいつが公爵夫人の旦那を殺したって噂は案外本当の事なんじゃねえか?ドラジェンは統也の背に声をかけた。

「あんたはメカニックだってな。レースなんぞ辞めて俺達と組まねえか?」

「断る」

 断固とした声が聞こえ、統也の体は闇の向こうに消えた。ドラジェンは肩をすくめると彼の後を追い再び歩き出した。