和尚さんの法話 『懺悔文』
今のお母さんは娘さんだったわけですが、当然周りの反
対もあったはずです。
而もその男性は他国(九州)の人で、子供がいる。
家族なり親戚の反対があったに違い無いですね。
そういうことを前の奥さんはよく知ってるはずです。
次々と頼むといって出たんですからそれくらい子供のこ
とを気にしているわけです。
ですから後の奥さんがどんな気持ちで来てくれたのかち
ゃんと分かってるんです。
この子のために、死んでしまうと思ったから反対を押し
切って来てくれた。
それはもう嬉しかったに違いないですね。
だからその霊がその家を守ってるという気持ちが伝わっ
てくる。
それで話があいますね。
霊魂は子供が殺されたか自然に死んだかはちゃんと分か
りますからね。
死んでしまえば分からんと思って悪口を言うと、それは
皆あの世では分かるんですね。
善しにつけ悪しきにつけね。
ですから霊界というのは、我々人間界の義理、人情、常
識、それを延長して霊魂のことを考えると間違いがない。
だから昔の人は、草葉の陰から守ります、この人にお世
話になって義理を果たせなかった。
そめて死んであの世から守りますと。
世話になって守ってる霊もあれば、恨んでる霊もあるし、
この世の人間界系と一緒ですね。
なににしろ、霊魂というものがあるんだということを前
提にして仏教を考えなければ、只単にこの世のことだけ
を考えていたら当て違いですね。
あの世があるならあの世へ行ってから考えるというので
は、もう遅い。
この世からちゃんと用意をしておかないと、スタートラ
インが違ってくるわけです。
例えば修行の出発点があるとすれば、或る人はこの線か
ら、或る人はこの線からと、善人なほど前へ、悪人ほど
後、後と後ろの線から出発することになる。そういうハ
ンデキャップが付いてしまうわけです。
早い話が、或る人は地獄へ行く。
或る人は天上界へ行く。
そういう違いが出てくる。
そういう仕組みになってるんです。
和尚さんの寺に墓地があって、そこに無縁さんがいっぱ
いあるんですが、その整理をしないといかんというので、
和尚さんの留守中でも無縁さんを取り除いてもらえるよ
うにと思うて、お墓の上へ白墨で印を付けたんですね。
そして何日もかけて作業が続いたんですね。
それからめったにお墓へ参らない大阪の檀家さんから連
絡があったんですが、その檀家さんは何年かに一遍参り
にくるだけでめったに来ない。
だから無縁さんではないということは和尚さんも知って
る。
その檀家さんが夢を観たというのです。
どんな夢かというと、先祖が家へ入ってきて、家の墓が
無縁になるというて来たというのです。
そんなことはありません、墓はありますから見てきて下
さいといって見に行くと、墓が無いんです。
それでびっくりして、何でだろうと。
無縁の墓には上に白墨で印を付けたはずなんだがと。
業者が来るまでに雨が降ったんですね、それで印が残っ
たのもあるが消えたのもあるわけです。
それでその墓には印が消えたと思ったんですね。
というのは古い墓でふちも取れてしまって小さいんです
ね。それで見ただけで無縁さんと思ったんですね。
それで先祖がえらいこっちゃ家の墓が無縁になるという
て夢に現れたんですね。
自分の墓がどうなると、ちゃんと知ってるわけです。
了
作品名:和尚さんの法話 『懺悔文』 作家名:みわ