戦場という名の場所
三学期ともなれば、中学三年生は高校進学への準備に追われ、学校生活を楽しむ余裕もなくなってくる。
少女もまた同じく、高校見学や面接の練習、試験勉強に追われる事になった。
クラスでの扱いは変わる事はなかったが、それでも、もう少しでこの学校も卒業する。その安堵に縋っていれば、何とか残りの中学生活を終わらせる事が出来そうだった。
高校の入試に何とか合格をし、その報告を担任へと告げた時だった。
「合格したんだね、良かった……」
心底嬉しそうにそう告げてくれた女教師に微かな喜びを覚えた、けれど。
「ずっと大変そうだったから、心配してたの」
その言葉に、少女は硬直した。
先生は、知っていたのだ。少女がクラスの中で苦しんでいた事を。
知っていて、何もしてはくれなかった事を、少女は冷めた思考の中で悟っていた。
期待をしていた訳ではない。けれど言い様のない憤りが少女の中で膨らんだのは確かだった。
教師など、所詮この程度のものなのかと、諦観が押し寄せる。
結局、中学での思い出は最悪なものとなってしまった。
三年前に見た淡い桜の花びらが、少女達を見送っていく。
いや、毎年、桜というものは何かを迎え、何かを見送り、そうやって何度も同じ年を繰り返しているのだろう。
それでも、自分の番になればそれはまた違った姿をして目の前に立っている様に見えるのは何故だろう。
高く青い空の下、長きに渡る戦いの舞台をようやく降りる事が出来る。
卒業式を終え、門の外で屯する卒業生達を傍から見渡しながら、少女は深く息を吐いた。
乾いた風、足元に散る白い桜の花びら。温かな春の日差し。
柔らかい空気の中を、少女は歩く。ここにいる誰とも、きっと一生言葉を交わす事はないだろう。
中学時代という一つの歴史と決別し、新たな生へと旅立つ少女の心境は、今までに感じ得た事が無い程に清々しいものだった。
憎しみと絶望、そして憤りの渦巻く校舎を見詰めながら、少女は思う。
結局、自分には味方などいなかった。裏切りと侮蔑、そして嘲りの中で生きる間、信じられる友人さえ失った。
正直に言おう。私は今でも中学三年での出来事、そして出会った人々を恨んでいる。
ただ同時に、様々な事を学びもした。
人は、他人の言葉に深く傷つき簡単に心を捻じ曲げられてしまう生き物だ。
だからこそ私は、他人に優しくする事の出来る人間になりたい。
あの時に感じた絶望や悲しみを、誰にも与えたくはない。
世界から絶望と悲しみに嘆く人が少しでも居なくなればいい。
惨酷な世界ではあるけれど、その望みが余りに馬鹿げた、無謀な想いである事も分かっているけれど、それでも私は、ただ世界の全てが愛と希望に満ちる事を願っている。
追記
もし、中学三年のあのクラスで、たった一人感謝する相手が居るとすれば、それは早百合ちゃんただ一人であった事を、ここに記しておきたい。
短い間ではあったけれど、最後まで私の友人として居てくれた事に、深く感謝しています。