サキコとおっさんの話7
爽やか系炭酸飲料をちびちびと飲むサキコと、毎度のようにタバコの煙を吐くおっさん。
「流石にデスクワークとかだと肩こり半端ねえな」
あー、と唸りながらおっさんは呟いた。一方のサキコはまだ若いせいか肩こり知らず。へえ・・・と突っ立ってタバコを吸う彼を見上げる。
そこへ物々しいメール着信音が鳴り響いた。おっさんは顔を引き攣らせる。
「やめろよそれ」
「えぇ?何でよ」
「何で仁義なき戦いのテーマな訳?変えてよ」
おっさんの苦情で、サキコは「知り合い全員から苦情くるわ・・・」と設定変更する。
「ねね、おっさんの携帯の着信音何?」
設定変更後、サキコはおっさんを見上げながら問う。若い時はマメに変えてた記憶があるものの、年を取るにつれて何だかどうでもよくなってきたんだよなと思いながら返事をした。
「着信音③」
しかも単音。
初期は単音だの十六和音だの自分で着信音作ったりする機能があったっけなーとちょっとだけ懐かしんでしまった。ただ、そんなマメな性格ではないのでがっついてやったりはしなかったけれども。
そういや実家に音楽を作る為の小冊子あったっけ・・とか。
「流行りの曲ダウンロードしてもすぐまた新しいの取るんだろ?きりがないよ」
「まぁねえ」
「なら着信音③のほうがいいだろが。経済的だろ」
どっちかと言えば流行り物が好きなサキコは、そんなもんかぁと呟いた。
ペットボトルのジュースを飲み干し、ゴミ箱に突っ込む。しばらくすると、またサキコのスマホから変な着信音が流れた。
おっさんは「何だよそれ!!」と怒鳴る。
「んあ?ああ、これねー、酔っ払いの嘔吐音」
「どっから取ってくんだよそんなもん!汚いな!!」
どんなマニアックサイトだよ、と引く。
「これもダメ?」
「やめろよ女として!!」
くっそー、と結局変更。着信音③とかでもいいだろとおっさんはベンチに座った。身体が大きいので、ベンチが振動でかすかに揺れる。
サキコはあれこれと検索し、あ!と表情を明るくした。
「これとかどう?」
ああ?と耳を傾けながら黙った。
そして聞き覚えのある音に、「ああ」と頷く。
ビール缶を開けてグラスに注ぐ音だった。
「いいな!それ」
ひんやりとしたグラスに注がれるビールの想像をして、おっさんはつい微笑んだ。飲みたくなってきたらしく、「帰ったら飲もーっと♪」と立ち上がってコンビニへ。
そんなにいいものなのか・・・と年齢的に飲めない彼女は何度も繰り返してその音を聞く。
おっさんは缶ビールが入った袋を手にしながら戻ってきた。
「よし、帰ってうめぇビール飲もーっと!」
すごく嬉しそうな顔をするのを、サキコは不思議そうな表情をしたまま別の音声をおっさんの耳に聞かせた。
おぅええええええ・・・べしゃっ、と彼の耳の中に突っ込むようにして入ってくる実に不愉快過ぎる音。
その嫌な音に、おっさんは「やめろよ!!!」と怒鳴った。そのチョイスのセンスが最悪すぎる。
「飲む気失せるだろーが!」
悪びれないサキコは「んじゃ帰るー!」と言いながら学校のカバンを手にした。この馬鹿女!と言いたくなるが、さすがに相手は女子高生だ。大人気ない。
またねー!と言う彼女の笑顔が、さすがに悪魔のように見えて仕方が無かった。
時刻は二十時前を差していた。
作品名:サキコとおっさんの話7 作家名:ひづきまよ