小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
黒崎つばき
黒崎つばき
novelistID. 47734
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ロボットが泣いた日

INDEX|17ページ/17ページ|

前のページ
 

 佐久間さんとも仲が良く、結婚したと聞いた時は本当に嬉しかった。
 楓ちゃんを守ってくれる人が出来て、本当によかった。
 子供たちに囲まれる楓ちゃんは、とても幸せそうに見えました。
 いえ、本当に幸せだったのでしょう。楓ちゃんの笑みは、何処となく悲壮な面持ちにも見えますが、それでも心にある悲しみを少しずつ癒している事が窺えました。
 私は安心していました。このまま、何事もなく楓ちゃん達を見守り、死んでいく事が出来るのだと、よう喜悦していました。
 けれど、世の中というものは、本当に理不尽に出来ているんですね。
 人は簡単に幸せというものを掴んではいけないとでも言うのでしょうか。
 私は、危惧していたんです。
 数年ぶりに、私の息子が帰ってきました。
 息子は、まるで人ではない異形な生き物に思えました。
 姿形がではありません。その身に宿る心、魂が異形だったんです。
 私は直ぐに気付きました。息子は、既に人の心を失くしているのだと。
 息子もまた、東京に出ていました。会社を立ち上げたらしいですが、それは直ぐに潰れて、膨大な借金だけが残ったらしいです。
 必死に働いてそれを返済した息子は、既にこの世に疲れ果ててしまったのでしょう。
 そうでなければ、あの変貌ぶりは説明がつきません。
 息子の目は、どこまでも暗かったんです。
 まるで、世界の全てを恨んでいる様でもありました。
 私は息子のその目を見た時から、ずっと嫌な胸騒ぎを覚えていました。
 菫ちゃんが殺されたあの日、私は見てしまったんです。
 息子が、裏口からそっと家に帰って来て、何かをずっと洗っている所を。
 息を殺してその姿を見ていると、何故か異様な心地になりました。
 そしてその後直ぐ、菫ちゃんの事が村中に知れ渡りました。
 私は確信しました。菫ちゃんを殺したのは、息子であると。
 けれど、母親というものは強欲で融通の利かないものです。
 私は、どうしても息子の事を警察に言う事が出来ませんでした。
 人様を殺めて、のうのうと生きている異常な息子であるにも関わらず、私はどうしても、その事実を誰にも打ち明ける事が出来なかったんです。
 私を恨んでくれて構いません。菫ちゃんを殺したのは、息子であり、私でもあるのですから。
 私もまた、疲れ果てていました。
 殺人鬼である息子は一日中家の中に籠り切りで、何を仕出かすかも分からない悪魔の様さえ感じていました。
 それでも、別段私を酷く扱う事もなく、無口ではありましたがそれだけだったんです。
 だから私は、愚かにも息子のした事は忘れてしまおうと思いました。
 そんな事が許されるなんて、微塵も思ってはないのですが、それでも私は、弱い母親でしかなかったんです。
 このまま静かに、親子二人、暮らしていければいいと思いました。
 けれど、やはり息子は根っからの殺人鬼でしかありませんでした。
 息子は、あろう事か今度は徹君さえ手に掛けようとしたんです。
 徹君が生きていた事は幸いでしたが、そのかわり、息子は死にました。
 いいえ、これで良かったんです。あんな恐ろしい悪魔がこの世にいる事自体が、許されない事ですから。
 そして、私は息子の死を知ったその瞬間に、生きる気力を失くしました。
 いえ、正直に言えば、もう生きていなくていいと、解放感さえ覚えました。
 私は、息子という悪魔から解き放たれたのだと、そう思いました。
 私の役目は終わったんです。
 ですから、私が死ぬのは必然でもありました。
 人殺しの親もまた、償い切れない罪を持っています。
 たとえ死んだとしても、その罪が消える訳ではありません。
 ですから、楓ちゃん。どうか私達親子を恨んで下さい。
 そうする事で、貴女の心が保たれるなら、私にはそれこそが本望ですから。
                   梅

 ***

 徹が白いベッドの上で目を覚ましたのは、森で佐久間に保護されてから三日目の夕方だった。
 薄らと開いたぼやける視界が鬱陶しくて、微かに声を上げれば、目の前に落ちた影。
 ああ、母さんだ。直ぐにそう思った。母は顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
 何故泣いているのか、それを聞きたくて重い腕を持ち上げれば、力強い手で握り返された。
 そこから伝わる温もりを感じた時、徹は不意にまだ自分が生きている事を悟った。
 そして目の前で涙を流す母に切なさと申し訳なさが込み上げて、徹は数年ぶりに温かな涙を零しながら、震え泣く母に、ごめんなさいと掠れた声で呟いた。
                   終


作品名:ロボットが泣いた日 作家名:黒崎つばき