サキコとおっさんの話5
サキコがいつものコンビニに辿り着いた時には既に定位置におっさんがタバコを吹かしていた。珍しいなと思いながら彼女はおっさんに手を振る。
「早えぇなー!」
「そっちが遅いんだよ。もう六時だぞ」
「バイト代入ったからさぁ、友達と買い物してきたんだよ」
そう言った彼女の手には大きな紙袋があった。
ああ・・・とおっさんはタバコを口に含む。
「いいな。最近買い物らしい買い物してねえわ」
「ストレス発散できるよ!あ、バイト先のババア、順調に観察日記作ってるからね!埋まったらおっさんにプレゼントするよ!」
何気なく言った言葉なのに完全に真に受けて、観察日記まで作成しだす素直さには感服する。楽しみといえば楽しみだが。
「ちょいさ、聞きたいんだけど」
「ん?」
「こないだ親戚がさ、子供産んだんだよ。んで名前とかメールで知らせてきたんだけどさ、これってどうなの?って思う訳よ」
へー、いいじゃん!とサキコはおっさんの話を聞きながら頷く。
「名前?何て?」
「ほら、最近当て字とか多いじゃん。絶対読めねーやつ。ああいうの見ると頭大丈夫か?って思うんだよね。俺が昭和生まれだからかもしんねえけどさぁ、どう考えてもその無茶ぶりっつーか何ていうかよ?もしその子供がおっさんとかおばちゃんとかになったらどうすんだよっていう話にまで考えちゃうんだよね。その事考えてないのかってなる訳。老人とかになってさぁ、例えばよ?名前が当て字でグレイトって読めるようにしてさ、爺さんになったらおかしくね?っていうんだよ。日本人でグレイト!!どうなのって」
「グレイト爺ちゃん」
筋肉質の老人を思い浮かべてしまった。老後はボディビルダーにでもならないと、名前と一致しないと思う。生きていく難易度が高いなと。
尚もおっさんは続ける。
「ちなみにお前、漢字でどう書くんだよ」
「は?あたし?」
おっさんが頷くと、彼女は携帯のメール画面で文字を打って彼に見せる。沙希子、と。
いい名前じゃんと感心した。それを見て、ほんとおっさんくさいとサキコは思う。
「そのさぁ、親戚っていうかイトコなんだけど。その名前見て愕然とした訳よ。どーすんのってな!その子の将来を考えるとそんな最初っからかっ飛ばした名前でいいのかって!受験だのなんだのってさぁ、困るんじゃねえのっていう話よ。もし俺が嫁にこの名前にしたいって言ったらぶん殴ってでも全力で止めるぞ?」
荒ぶってるなぁ・・・とサキコは黙って聞いていた。とりあえずそのイトコが名づけたその名前を知りたくて、彼女はおっさんに問う。
「その子供の名前は?」
「あぁ?ええっとな。・・・待てよ、メール残ってるわ」
おっさんは自分のスマホのメール履歴を遡って探し当てると、サキコに「ほれ」と手渡した。黒いスマホの画面を見ると、絵文字満載の可愛らしくお花畑的な中身が・・・。
『〇日にかわいぃベビたん産まれまちたぁ★名前はぁ、ダァといっぱい、いーっぱい考えてぇ、愛凛天使(らぶりんあんじゅ)ちゃんで~す!今度お披露目行くからne★』
サキコは何も言わずおっさんに携帯を返した。
「まぁ、読めなくもないんだけどさ・・・」
「だろ・・・ペットかよって・・・」
はぁ、と溜息を漏らす。そして頭を抱えた。
「何て呼べっていうんだよ!!!あの馬鹿女!!!」
吐き捨てるように暴言を吐くおっさんに、サキコはご愁傷様ですとしか言いようが無かった。
時刻は十八時五十分を差していた。
作品名:サキコとおっさんの話5 作家名:ひづきまよ