こぶた・たぬき・きつね・ねこ
その三
ある里山の少し奥に入った所に、こぶた・たぬき・きつね・ねこ、の仲良しの動物達が住んでしました。
四匹は仲良く遊びながらいつも歌っていたのでした。
♪こぶた・たぬき・きつね・ねーこ・こぶた……♪
でも楽しい日々が過ぎ去るのは早いもの。
気が付けばみな成長し、ずいぶん立派になっていました。
ある日、みんなで仲良く歩いていると、ネコちゃんがちょっと得意げに言いました。
「ねぇ聞いて。あたしねぇ、この頃ママに漢字を習っているのよ。この前はねぇ、自分のお名前とネコっていう字を覚えたわ」
「へえすごいなぁネコちゃんは漢字が書けちゃうんだ」
ブタくんが感心して言いました。
「なんだブタくんは勉強しないんだ? ボクだって字は教わってるよ」
タヌキくんも少し得意そうに言いました。
「へえタヌキくんも!?」
ブタくんは感心するばかりです。
「でもキミたちは書けるようになっただけだろ? ボクなんかもっといろんな事を知ってるよ」
キツネくんはいつもの様にちょっと気取って言いました。
「先ず猫はねけものへんに苗。苗はね鳴声の『ビョウ』っていうのをあてたんだって。狐もやっぱりけものへんに鳴声の『クヮ』っていうのをあてたんだって。狸くんはちょっと変わってて本当は違う動物を狸って書いてたんだけど、いつの間にか変わっちゃったんだって」
そんなキツネくんをブタくんは尊敬のまなざしで見ているばかり。
「それでね、ケモノヘンって知ってる? 犬っていう漢字が変化して出来たんだって。やっぱりイヌ属はケモノの代表っていうことなのさ。ねぇタヌキくん」
キツネくんはますますハナ高々です。
「あら、それはずいぶんだわ」
ネコちゃんが言葉とは裏腹にニッコリしながら言いました。
「イヌ科のあなたたちも、ネコ科のあたしも同じネコ目、つまり食肉目なのよ。やっぱりネコが一番なのよ。ところでブタさんはどうだったかしら?」
ネコちゃんのギモンにキツネくんがエッヘンと答えます。
「豚って言う字は、ツキヘンに豕《いのこ》って書くんだよ。豕っていうのはイノシシの事だよ」
「へぇ、ブタくんだけはケモノヘンじゃ無いんだ?」
タヌキくんは不思議そうです。
「よく聞いてくれたね。ツキヘンというのは三つの成り立ちが有って、まずお空の三日月の形からのツキヘン、次に舟っていう字が変化したフナヅキ、そして肉って言う字が変化したニクヅキっていうのがまとまっているんだって。元はちょっとづつ形が違ったけど、今はみんな同じに書いてるんだって」
「キツネくんすご~い」
みんな声をそろえて言いました。
「でね、ブタ君のツキヘンは実はニクヅキだって、お父さんが教えてくれたよ。つまりね、豚というのは肉を食べるために飼いならしたイノシシという意味なんだよ。ふふふ、わかるよね――」
「えへへッ」
「うふふ♪」
「うわ~ん!!」
ブタくんにおそいかかった他の三匹は、あっという間にブタくんを食べてしまいましたとさ。
めでたし、めでたし?
おわり
作品名:こぶた・たぬき・きつね・ねこ 作家名:郷田三郎(G3)