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宇宙を救え!高校生!!

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 太古の地球にはビラミットという建造物があったが、それと形状がとてもよく似ている。

 ただ、高さ300メートルのこの巨大な正四角錐の、内部がどうなっているかは今だ不明であった。
 表面を覆う光沢のある特殊な金属は、現在の人類の科学では傷をつける事はおろか、内部を透視することもできなかったからだ。
 更にこの遺跡がもっとも不思議なのは、作られてから五億年は経過しているというのに全く腐食していない、それどころか作られた当初のままではないかと思えるほどの、美しく神秘的な輝きを放っていることだった。

「実物は始めて見たけど。何だか不気味ね・・・・・」
 と、いつになく弱気な発言の莉子だった。

「えー! ドキドキするじゃん! 早速撮影っと!」
 隼人は莉子の様子など全く気にする事も無く、ポケットからカメラを取り出した。

「この巨大な建造物以外は特になにも無さそうだね。とりあえず周囲を探索して見ようか」
 僕が声をかけると、皆はそれに従うように、遺跡の外壁に沿ってぐるっと一周している遊歩道を歩き始める。

 特殊合金で作られたた遊歩道の幅は狭く、なんとかぎりぎり人が二人ですれ違う事ができる幅だった。普通の人間よりも明らかに肩幅の広い浩二には少し窮屈そうだ。

 ちょうど約半周、遺跡の裏側に到達した時だった。

「キャッ!」
 突然、僕の真後ろで莉子が叫んだ。

「どうした莉子!」

 莉子の悲鳴なんて珍しい。
 僕は慌てて振り返った。

「そ、それ・・・・・・・・・」
 と青ざめた顔で僕の足元を指差す莉子。

「なんじゃこれは・・・・・」
 普段滅多なことで動じない浩二まで、僕の足元を見てもうろたえている。

「えっ! 僕なの?・・・・・」

 僕は慌てて自分の足元を振り返る。
 右後ろ足の踵に張り付くように、『それ』はいたのだ。

「うわーっ!」
 僕は慌てて、勢い良く右足を振ったが、『それ』はガッチリと僕の足にしがみついて外れなかった。
 一体いつから僕の踵に張り付いていたのか。少なくともダイモスで移動している時にはいなかったのだからやはりここで付いたのだろうか?

 それはまるで生物のように見えた。ライターほどの大きさの、ズングリとした光沢のある黒い身体には、刺のついた足が四本あり、その四本の足で僕の踵をガッチリと抱え込んでいる。そして頭には、ブルーに輝く不気味な目のような物が二つ付いていた。

「なにこれ、グロッ!」
 と言いながら、楽しそうに写真を撮りまくる隼人。

「わわわわわわわわわわわわわわ・・・・・・」
 僕は、更にブンブンと勢い良く右足を振り回したが、『それ』はピクリとも動かなかった。

「まってろ、オレが今剥がしてやる」
 冷静を取り戻した浩二が、大胆にも『それ』の体を鷲掴みにして、力任せに引き離そうと勢い良く上に引き上げる。

「うわー!」
 その瞬間、僕は右足を上に、頭を下に逆さ吊りに引き上げられてしまったのだ。

 そんな状態でも、『それ』はガッチリと僕の足を抱え込み、まるで足の一部にでもなったかのように離れなかった。

「むっ・・・離れないな」
 浩二は、そのまま更にブンブンと振り回す。

「うわー・・・・気持ち悪い、浩二、頼むから下ろしてくれ・・・・・」
 と半泣きの僕。

「おおっ。すまん」
 浩二はいきなり手を離した。

「アッツ!」
 いくら火星の重力が弱いとはいえ、頭から歩道に落とされればそれなりに痛いのである。
 とっさに手をついてどうにか歩道との直撃は避けたが、頬をすりむいてしまった。

「てててっ・・・・・・」
 傷を手で触れてみたが、どうやら血は出ていないようだ。

「おおっ。大和、すまん、すまん」
 と更に申し訳無さそうな浩二。

「ああ、大丈夫。気にすんな・・・」
 そう言いながらも内心では、片手で人間を軽々と持ち上げるなんて、どんだけ怪力なんだよ、と僕は思っていた。

「あら、大した高さでも無いのに、受け身も取れないなんてホント情けないわね」
 上から目線でものを言う莉子。すべての人類がお前と同じ運動神経を持っていると思うな。

「ヒヤッホー。すげーいい写真が撮れたぜー」
 全く空気を読まない隼人の発言はこの際、無視をするとして・・・・。

「それにしてもこれは何なんだ? どうやら生物では無いようだけど?」
 歩道にしゃがみこんでいる僕は、改めて貼りついたままでピクリとも動かない『それ』に目を落とす。

「そうね、そもそも火星には、人間が飼育いている以外の生物はいないし、それに、生物にしては動きが無さすぎるものね・・・・・」
 莉子は興味深そうに、だが、やや離れた位置から『それ』をじっと観察している。

「あっ! オレさー、古典映画のアーカイブで、人類を襲うエイリアンの映像を見たことがあるけど、たしかそんな風に取り付いて離れなかったよ。それで最後には取り付いた人間を殺しちゃうんだけどね」

 隼人のその言葉で、皆が、僕からジリジリと離れるのが分かった。
「げっ、マジか・・・」

 映画の中の作り話とは分かっていたが、僕はすこし不安になる。

「あら、私もその映画見たわ。確かに・・・・・似てるわね」
 と不安に追い打ちをかける莉子。こんな時は肯定ではなく否定だろっ!。

「とにかく、浩二の怪力でも剥がせないのなら、もう脱ぐしか無いわよね」
 まさか、莉子はこんな場所で僕にストリップでもさせようとしているのか。まぁ、莉子ならそのくらいのことは言い出しかねないのであるが。

 僕が、そんなことを真剣に考えているのに気づいたのか、莉子が続けて言った。

「ちょっと、変なこと考えてないわよね? 私が脱ぐと言ったのはそのブーツの事よ。まったく、馬鹿じゃない!」

「あっ。なるほどブーツか!」
 思った以上に気が動転していて、簡単なことに気づかなかった。というか、お前冷静すぎだろ、莉子。

 僕らはダイモスに乗る事を考慮して、普段からライディングブーツを履く事が多い。
 幸いにも『それ』はブーツの踵部分に張り付いているので、ブーツを脱ぐ事によって、ひとまずはこの気持ちの悪い状況からは、逃れることができそうだ。

「よし、脱ぐぞ!」

 僕はブーツのロックに手をかけた。

 この時この瞬間まで、確かに僕らは普通の高校生だった。今日始めて遭遇した『それ』との関わりが、僕らの運命のみならず人類の、いや宇宙の運命までをも左右する事になるなんて、勿論、微塵も考えていなかったのである。

 僕のブーツに付いた『それ』も、きっと友人の誰かが仕掛けた悪戯・・・・・程度に、その時はまだ心の底で思っていたのだった。



作品名:宇宙を救え!高校生!! 作家名:葦藻浮