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宇宙を救え!高校生!!

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 やがて、ゆっくり変化していた球体の色が、オレンジ色になったのを確認するとハルが告げた。
「エネルギー充填率八十パーセント。ニュートリノ砲発射可能です。セイフティロック解除。エネルギー充填を継続します。マスター発射準備をお願いします」

「了解!」

 そう短く返事をすると、ハルの言葉に促されるまま、僕は両手でトリガーをしっかりと握りしめ、方舟とのシンクロモードに入る。そして、目の前のフォボスに意識を集中すると、方舟は素早く船首をフォボスへと向けたのだ。

「エネルギー充填率100パーセント。ニュートリノ砲発射準備完了」

 ついに球体の色が赤へと変わり、いつでもニュートリノ砲を発射可能であることをハルが告げた。

 僕の目は宇宙のただ一点を凝視していた。
 今も、火星へと落下し続けるフォボスへと。

 じわり、トリガーを握る手に汗が滲む。
「はぁ・・はぁ・・」
 呼吸が荒くなって、心臓の鼓動が少しずつ少し早くなる。
 疲労、プレッシャー、たった今受けたの攻撃の動揺・・・様々な要因が重なって僕の集中力を妨げる。
(もう時間がない・・・エネルギーを充填するのにかかる時間と、フォボスが火星に落下するまでの残り時間から考えても、 チャンスはこの一度だけだ・・・・まずい・・・頭の中が真っ白で集中できない、どうしょう!)
 緊張のあまり、僕はパニックになっていた。

 だが、事態はさらに最悪な方向へと進むと、僕の集中力を一層かき乱した。

 ギューン! ギューン! ギューン!

 今日、三度目の敵からの砲撃を告げる緊急警報が鳴り響いたのだ。
 僕の心臓は、全力疾走をしたかのように速く強く脈打ち、汗が全身からあふれ、膝と腕が、ががくがくと震え始めた。
(もうだめだ・・・・できっこない・・・・もし失敗したら火星人類は絶滅してしまうのだ・・・・ああっ・・・・怖い!)


 その時だった。

「大和。緊張すんな。深呼吸してみろ」
 と、浩二。
「そうだよー、楽しくやろうぜ。その役、ほんとはオレが代わってもらいたいくらいだよー」
 と、隼人が。
「私のお笹馴染みの大和が失敗する訳ないでしよ。もっと自信を持ちなさい!」
 と、莉子が。
「マスター。全力でサポートします。ご安心を」
 とハルが。

 みんなが声をかけてくれたのだ。

「・・・・・みんな・・・・ありがとな」

 嬉しかった。

 なんだか、一気に緊張が解けて楽になった気がした。
 自分はひとりで戦ってるんじゃない、仲間と一緒だったんだ。その事に改めて気付かされた。
 涙が滲みそうになるのを堪えてフォボスに集中する僕の体から、もう震えは消えていた。


「スーッ・・・・・・」
 大きく深く息を吸い込むと、僕は叫んだ。


「ニュートリノ砲発射!」


 方舟の船首から幾憶、幾兆もの光の粒子が発射され四方八方に分散したかに見えたが、次の瞬間、その数多の光の粒子たちは、まるで意志を持っているかのように一点に収束を始めた。そして巨大な光の帯となって直進すると、フォボスへと注いだのだ。その光の帯の中でフォボスは一瞬にして消えてなくなり・・・・いや、自身も光へと姿を変えていた。


「命中したのか・・・?」

 破壊と呼ぶには似つかわしくない、あまりに荘厳で美しい終焉であったため、僕には本当にフォボスを破壊できたのかが判断ができなかったのだ。
「ハイ、マスター。フォボスの消滅を確認しました。ミッションコンプリートです。おめでとうございます」

 そう言ったハルの顔が、笑ったように見えたのは気のせいだろうか。

「やった! 大和、最高だぜ!」
 隼人は、こちらを向いてガッツポーズをしていた。
「やったな大和」
「やったわね」
 浩二と莉子も心の底から嬉しそうだ。


 しかし、まだ勝利の余韻に浸るのは早かったのだ。


「方舟、180度旋回。これより緊急離脱します! エンジン出力全開!」
 ハルが叫ぶと、巨大な方舟がまるで紙飛行機のように軽やかな動きで旋回し、太陽系の外へ向けて発進したのだった。

 その、僅か数秒後の事だ。

 方舟のいた座標に、突然何も無い宇宙空間の三カ所から、エネルギー砲が矢のように撃ち込まれたのだ。
 撃ち込まれたエネルギーの矢たちは、本来ターゲットがいるべき座標で三本同時にクロスすると、巨大なエネルギーの塊となって相殺し消滅した。
 もし、勝利に浮かれてあの場所に残っていたら、今頃あの三本の光の矢に、この方舟は貫かれていただろう。そう思うと背筋が凍る思いがした。


 方舟がさらに速度を上げると、僕たちの故郷、火星が見る見る小さくなっていく。


 十六年間暮らした火星ともこれでお別れかと思うと、勿論、寂しい気持ちはあった。でも僕たちは、この星や、この宇宙を守ると決心したのだ。もう後戻りはしない、前に進むだけなのだ。そこに、どんな苦労や困難が待っていようと、この仲間たちと一緒に、必ず乗り越えてみせる!

 今や、小さな光の点となってしまった火星を見つめながら、僕は改めて心に誓った。


「みなさん、次の銀河への移動にはスーパーマクロドライブ航法を使います。意識を集中してください」
 ハルの言葉が聞こえる。

「えー・・・・私、もう疲れたから今日は休みます」
「オレ、トリガー引いてみたいなー」
「バカモン隼人、わがままいうな」
「お、お前らさ、もうちょっと仲良くやろうぜ・・・・・・」

 
 五人の元気な声が、方舟の中にいつまでも響いていた。


 闇の生命体の攻撃から逃れ、ワームホールを閉じる事ができるのだろうか?
 新たな仲間を発見することができるのだろうか?

 方舟は速度を上げると、まだ見ぬ暗黒の宇宙目指して進んで行く。
 僕たちの期待と不安を乗せて。


 to be continued


作品名:宇宙を救え!高校生!! 作家名:葦藻浮