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宇宙を救え!高校生!!

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 妻の無理を聞くのは、夫としての当然の義務。とでも言いたげな顔で胸を張る。

「ええっ! そうなんですか。全然知らなかったです」

「結婚したのは一年前だから・・・・・・・略奪婚てやつよ!」
 そう言うと、看護師は、悪戯がばれてしまった子供のように笑って見せた。

 略奪婚、と聞いて少しビビった。テレビドラマでしか聞かないようにセリフを、さらっと言ってのける大人の女性って凄い。

「お、おめでとうございます」
 こんな時、なんて言っていいのか分からなくて、とりあえず祝辞を述べてみる。

「ありがとう。フフフッ・・・」
 僕のその言葉に、嬉しそうに微笑む看護師に、底知れぬ何かを感じた。



 医院長室までの順路を看護師に聞いて、六十五階でエレベーターを降りる。エレベーターホールから真っ直ぐ伸びている廊下の突き当りに一つだけ部屋があった。ドアには小さく『医院長室』と書かれたパネルが掲示してあるので、間違いなくここだろう。

 コンコン。と扉をノックする。

 その動作に反応して壁の監視カメラが微かに動くと、カシュン、と音が鳴り、扉が横にスライドして開いた。

 そのとたん。

「大和君! 大和君じゃないか!」
 大きな声で二度、僕の名前を叫ぶと、医院長が飛ぶように駆け寄ってきて強く手を握った。
 あの日と同じ、とても大きくて温かい手だった。

「あっ・・・・・はい、大和です。ご無沙汰・・・してます・・・」
 相手のオーバーアクションに気圧され、言葉がたどたどしくなってしまった。

「ほんと、久し振りだね! 随分と背も伸びて立派になったねー」

「は。はぁ・・・」

「どうして、もっと早くに訪ねてくれなかったの? ずっと心配してたんだよ」

「ええ、あの、なかなか伺いにくくて・・・・」
 やっと、握った手を離してくれた医院長から、少しだけ距離をおくと、僕は改めて深々と一礼をした。

「その節はお世話になりました!」

「やだなー。大和君お礼なんていいから・・・」
 医院長は両手を胸の前に上げて、なぜか申し訳なさそうだ。

「じつは・・・・・今日お邪魔したのは、見て頂きたい物があったからなんです」
 僕は単刀直入に切り出した。

「私に見せたいもの?」

「はい、父の友人だった医院長先生なら、きっとこれが何か分かるかなと思って」
 僕は、首から下げていた『鍵』をシャツのボタンを一つだけ外して取り出すと、医院長に手渡した。

「これは・・・・鍵・・・だね」
 手にとった鍵を、訝しげに見つめる医院長。

「これは、子供の頃に、自分たち家族の暮らしていた家の鍵だと思うんですが、その家が何処にあったか、ご存知じゃありませんか?」
 僕の問いかけに、暫く考え込んでいた医院長であったが。

「うーん・・・・・。大和君ごめん。私はお父さんの家に行った事が無いし、何処に住んでいたかも知らないんだ」
 そう言うと、ペコリ、と頭を下げた。

「あ、謝らないでください! 僕の方こそ突然訪ねてきて、無理なお願いを言って、申し訳有りませんでした」
 と、こちらもペコリ。

「それにしても古そうな鍵だね」
 鍵を手に持って、くるくる回しながら、ディテールを確認したあとで僕に返した。

「そうなんです、僕はきっと古い家のドアの鍵じゃないかと思っています」
 僕は、受け取った鍵を再び首にかける。

「古い・・・家ね・・・・・・・・・あっ、そう言えば!」
 医院長は突然手を叩くと、窓際に置いてある、オーク材で出来た大きな机まで足早に移動し、引き出しを開くと、ガサゴソと何かを探し始めた。

「あった! これこれ!」
 慌てて僕の元へ戻ってきた医院長がその手に持っていたのは、一枚の写真だった。

 写真には小さな赤ちゃんと、赤ちゃんを抱っこする男女が写っていたが、赤ちゃんを中心にしたトリミングのため、男女の顔は肩から上で切れていた。撮影した場所はどこかの公園か庭のようでもあった。

 綺麗な花々が背景となっている。

「お父さんとお母さんが抱っこしている、真ん中の赤ちゃんが大和君だよ。この写真は大和君が生まれた時、お父さんが私に自慢するためにくれた写真なんだよ」

「これが・・・父さんと母さん・・・・・・・・・」

 肝心の、両親の顔部分が写っていない写真であったが、僕を大事に二人で抱きかかえる様子や、ぼんやりと背後に咲いている花々の色合いなどから、暖かさが伝わってくる写真だった。

「この写真を撮った場所が、大和君の生まれた家らしいんだよね」

「ここが生まれた家・・・・・」
 目を凝らして、僅かでも何かヒントとなる物を、写真から探そうと試みたが、何も分からなかった。

「そうだ、大和君。私にはその鍵のこと分からないけど、お母さんととても仲の良かった女性がいるから、会ってみるといい。彼女ならその鍵について、何か知っているかも知れない!」

 医院長は再び机に戻ると、保存してあるアドレスデータの中から目的のデータを探し出し、画面を見ながら手書きでメモ用紙にメモして、僕へと渡してくれた。

「有難うございます!」
 僕は嬉しくなって、深々と頭を下げた。


 まだ手がかりが消えたわけじゃない。


 家族の写真と、医院長から貰ったメモを握りしめた僕は、次の出会いに僅かな望みを託す事に決めた。


作品名:宇宙を救え!高校生!! 作家名:葦藻浮