宇宙を救え!高校生!!
「今からワームホールを閉じる旅に出れば、火星、いやこの宇宙の総ての生命を救うことが出来るのかもしれない。だけど僕ら自身が生きて、再びこの火星へ戻ってこられる確証は無い。それどころか僕らが失敗することで、この宇宙の消滅が早まるかもしれない・・・・」
ずしりと、重い空気がその場に立ち込めたが、僕は構わず話を続けた。
「だからみんなは、無理にこの旅に参加しなくてもいいと僕は思う。行きたくなければこのまま火星に残ればいい。もしも闇の生命体による隕石の攻撃があったとしても、ミサイルで隕石を破壊する方が、宇宙の旅に出るよりもよっぽど安全だと思うよ」
莉子を見ると、大きく頷いてみせてくれた。
「ハル。僕らには考える時間が必要だ。だから一度それぞれ自分の家へ戻って考えたいんだ。そしてその後で決断する。その結果、旅立つと決めた者は24時間以内に再びここへ戻ってくる。ここに戻らない者はに火星に残る。これが僕らの決断だ!」
勢いでそう言ってしまった後で皆を見ると、全員、大きく頷いてくれていた。
どうやら皆、僕の意見に賛成してくれたようだ。
「分かりましたマスター」
ハルは瞬きもせずに、そう応えた。
そんなやり取りがあった暫く後に、僕らは再び火星の遺跡の前に立っていた。
「ほんとに考えただけで簡単に出られるんだな」
隼人は自分の体に異常が無いかを確認しながらそう言った。
「あら隼人。メガネが顔に食い込んでいるわよ」
莉子が言うと。
「まじか!」
大慌てで自分の顔の目のあたりを弄る隼人。メガネを指先に引っ掛けて慌ててはずしてみる。
「なんだよ、食い込んでなんか無いじゃん、莉子ーっ、ひでー騙したなー」
「あーら、再構築される時に、体の一部として取り込んでもらえば良かったのよ。それならメガネのかけ忘れで、大好きなゲームが出来なくなるなんて事がなくなるじゃ無い」
そんな酷いことを平気で言う莉子は、方舟から出る際には、最後に一人だけで出てきた。
よほどみんなと混ざるのが嫌だったのだろう。
それにしても、今起こった出来事があまりにも非現実すぎて、まだ完全には理解できていなかった。
話が突拍子もなさすぎるし、飛躍しすぎている。
ひょっとして視聴率の低迷に窮したテレビ局の新手のドッキリ番組? とでも思えてしまうほどだ。
(まぁ、それならターゲットが僕らじゃなく、てタレントを選ぶか)
それに、今起こったことが真実である証に、『スカラベ』は僕の右の踵に完全に同化していた。ブーツをすり抜けて、刺青でも入れたかのように右踵の一部として完全に溶け込んでいたのだ。
だけど、SF映画でもここまで話は飛躍して無いんじゃないか? 僕らは何処にでもいる普通の高校生なんだけど・・・・・・まぁ莉子は別として。
人類の未来とか、宇宙の存亡とか正直重すぎる。重すぎで潰れてしまう、人ひとりを背負って歩くだけでも大変な重さだと思うのに、この宇宙の総ての生命は絶対無理でしょ。
などと僕が思っているのと同じ事を、みんなも考えていたようだ。いつも陽気な隼人でさえ、つまらない冗談も言わずに無口になっていた。
いや、一人だけ違っていた。
「なんだか、お腹が空いちゃったわね」
沈黙を破るかのように莉子がそう言った。
確かに今は十二時過ぎだが、あんな事が起きたばかりなのに、まるで普通の平日のランチタイムであるかのように軽い調子で莉子がそう言ったのだ。
まったく女性という生き物はたいした生き物である。環境の変化に適応する能力、受け入れてそれに溶け込む能力は男よりも数段、いや数百段上と言う事なのかも知れない。
(特に莉子の場合)
とは言え、莉子のその一言で、僕らは完全に普段の僕らに戻る事ができた。普通の高校生としての感覚が、やっと戻ってきたのである。
「そうだよー。もう昼じゃん、腹へったー、ピザ食いてー」
隼人もいつもの隼人に戻っていた。
「そうだな。じゃあ今日は午後の授業も無いし、ここで解散しようか」
普通の高校生が話す当たり前の内容として、僕はそう皆に告げた。
エレベーターで地下1000メートルにある遺跡から地上へと戻り、ダイモスに跨がりエンジンを始動すると、皆、思い思いの方向へ走り出した。
「それじゃ、また明日ねー」
僕らは普段通りに別れの挨拶を交わした。
明日は、皆それぞれに違った運命が待っているのかもしれない。
もう二度と会うことは無いかもしれない、というのに。
作品名:宇宙を救え!高校生!! 作家名:葦藻浮