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ルームランプ

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その女だと思われるそいつは俺と目が合うと、ケタケタと恐ろしい声で悲鳴のような高笑いをした。

「ヒィーーヒッヒッヒッヒッヒャッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

俺は思わず耳を塞いだ。が、目をそらすことができなかった。

その女はニタニタした顔で一息置くと、今とは打って変わった、地を這うような低い声で言った。

「   お   前   か   」


俺の記憶はそこで途切れた。


気付くと俺は姉と一緒に家に帰っていた。

「・・・姉ちゃん・・・」

「大丈夫?」

よくよく話を聞くと、姉は運転をしている最中いきなり体が重くなり気付くと耳元で俺が聞いたのと同じつぶやきが聞こえたのだという。
はじめは無視をしていたがつぶやきが大きくなるにつれ、どんどん体が重くなっていったので無意識につぶやきに対して答えていたらしい。

不意につぶやきも体の重さもなくなり助手席に座っている俺を見てみると、正面を見て動かないので慌てて車を飛ばして家に帰ってきたのだという。

窓の外を見るとまだ夜は明けてないようだった。

「明日、お祓い行こう、直人」

「え?」

「実は、お父さんがこの車買ったときに、ディーラーに言われたことがあるんだって」

「何・・・?」

「実は・・・この車、事故車らしいの。車があんまり破損しなかったから直してそのまま中古車にしたんだって」

「でも・・・そんな車って別にこれだけじゃ・・・」

「相手が死んじゃってるんじゃないかって・・・思うのよ」

「え?」

「あの女の人・・・もしかしたら前の運転手にひき殺されて、恨みを持ってるんじゃないかって」

そんな馬鹿なと言おうとした俺だが、姉の言うことにはすべて納得がいく。

「ルームランプも、あの人がつけてたんじゃないかな」

「確かに・・・」

その日は結局眠れずに、朝になったらすぐさま歩いて近所の寺に走ったのだ。




『おそらくその女性は事故に遭われた方でしょうな。お気の毒に。お祓いもきちんとしておきましたからこの御札を車の内側に貼り付けておいてください。念の為に家の中にも』




寺のお坊さんはそう言って数枚の御札をくれた。
なんとなく安心した俺達は御札を貼るために急いで家に帰った。

「これで大丈夫かしら」

「ああ、大丈夫じゃねえの」

姉は車の運転席のシートの足元と、助手席のダッシュボードの裏側に貼られた御札を見て安心したようにつぶやいた。

「でももうこの車は乗れないね・・・」

「当たり前だよな・・・」

「ああでもお祓いしてもらったら気が抜けたわ!せっかくだしどこかで何か食べてこようか!もちろんバスで」

「おういいぜ!姉ちゃんのおごりな」

「仕方ないわね」

俺達は笑いながらバス停に向かって歩き出した。
だから俺達は気付かなかったのだ。

姉の車のルームランプがひとりでについたということを。
作品名:ルームランプ 作家名:中川環