ビニコン ラブ。
どうしよう。どうしよう。
まともに裕也君の顔が見られない。絶対今の行動はバレバレでしょ。だって、ついさっきジュース補充したばかりだもん。
しかし、いつまでもこんな所に入っているわけにもいかない。奈々子は陳列棚の隙間から裕也の様子を伺う。
裕也はレジに立ち、接客をていた。
あぁ、いつもの女子校生達だ。
裕也は気付いていないだろうが、この女子校生達は間違いなく裕也目的のお客だった。
特にあのひときわ可愛い女の子は本気だろう。
その子は裕也からおつりを受け取ると、周りにいた友達に肘で突かれ冷やかされてる様子だった。
照れているのがここにいる奈々子にでも分かった。
そしてその子は大胆にも裕也へこう言った。
「佐々木さん、メアド教えてもらえないですか?」
「きゃー」
その子の発言に周りにいた友達も騒ぎ立てる。
って言うか、あなた達が促したんでしょ。奈々子は心の中でそう思った。そうだ、私がこんな所に閉じこもってるばっかりに裕也君にこんな隙を与えてしまったんだ。
奈々子は自分が嫌な女子だと分かっていながら、裕也があっさりメアドを教えてしまうのが嫌だったので、冷蔵庫から飛び出した。
バタンっ
バックヤードの扉の開く大きな音に女子校生達は一斉に奈々子を見る。
女子校生達はちょっと焦り気味だったが、裕也の返事はまだ聞いていない。
女子校生達はくるっと裕也を見つめる。
「ごめん、教えられないや。」
「えー!?メアドくらいいいじゃないですか!?」
友達の1人が裕也に聞いた。
「ごめんな。また買い物きてよ」
裕也は爽やかな笑顔で、高校生をあしらっていた。
「分かりました。じゃ、また買い物来ますっ」
「おうっ、ありがとう」
意外に素直な女子校生は笑いながら店を出て行った。
しかし店を出る直前、女子校生達は振り返り奈々子を睨んでいった。
何で私!?そりゃ、ちょっと邪魔しちゃったけど、、、
奈々子は少し反省していた。
「メアドくらい教えてあげればよかったのに」
奈々子は女子校生への罪滅ぼしのつもりで裕也に言った。
「ん?なんで?」
裕也は奈々子と目を合わさずレジのお金を数えながら答え返してきた。
「別に減るもんじゃないじゃん。毎日来てくれるし、もう顔見知りじゃん?私だって裕也君の教えてもらってるんだし」
奈々子はそう言って裕也を覗き込む。
「どうなのよ?」
別に喧嘩を売ってるワケでもないのに強い口調になる。本当は教えなくてホッとしてる自分の気持ちがバレないようにしているのが自分でも気付いていた。
ガシャン
裕也はレジを閉めると逆に奈々子を見つめた。
「俺は、好きな人にしかメアド教えないから。もったいなくて。」
「うそ?私は教えてもらったよ?」
自分でも何を天然な事を言っているんだと思ったけど、ちゃんと聞いてみないと理解出来なかった。
「本当に鈍感なんだね。奈々さんは。まぁ、そこが俺の好きな所なんだけど、、」
裕也はそう言って頭を掻いた。照れ隠しなのか「ゴミ見てくる」と言って外へ出て行った。
奈々子は頭の中を整理出来てない。
これって、、、、
「30番のタバコちょうだい」
奈々子はぼーっとしているといつの間にかレジにお客さんが付いていた。
いつものお客さん。
「あっ、すみません。こちらですね。有り難うございます」
手際よくスキャンして、お金を頂いた。
「ありがとうございましたー」
「ありがと、おやすみ」
いつものお客様は笑顔で店を出て行く。そのお客さんと入れ替わりで裕也が入って来る。
しっかりと目が合ってしまい、奈々子は恥ずかしさのあまり、俯いてしまった。
「ごみ少なかったよ」
「そっか、ありがと」
「・・・・・」
「・・・・・」
なに?この沈黙は。と思っていたら、最初に口を開いたのは裕也だった。
「暇だね、、ちょっと話していい?・・・・俺さ、まだこのバイト始める少し前なんだけど、このコンビニの子がレンジで温めていたおにぎりを袋に入れ忘れてさ、、俺も全然気付かず帰ってたの。そしたらその子が真っ暗闇の中、後ろから猛ダッシュで追っかけて来てさ。おにぎりー!!って、俺自転車だよ?超早えーの、その子」
やだ、、どこかで聞いたことある話。奈々子は途中から自分の事だと気付いた。
そうだ、あの時超忙しくて次のお客さんのお弁当を温めようとレンジ開けたら前のお客さんのおにぎりが入ってて、すっごい慌てたの覚えてる。
真っ赤な顔でぽかーんと裕也を見つめる奈々子。
裕也も思いだし笑いをしながら続ける。
「その後も何度か店行ってるんだけど、完璧忘れられてて、俺ちょとヘコんだんだよな」
「あの時は本当にごめんなさい、、」
奈々子は恥ずかしくて、いろんな事に謝った。
「何言ってるの?いいよ、別に怒ってないし」
裕也は笑っていた。
「それで、ここの求人があるのたまたま見つけてさ、速攻面接」
「それで直ぐに採用?」
「オーナーにさ、なんでここでバイトしようと思ったの?って聞かれて、そのこと言っちゃったよ。それで、その子と働きたいってハッキリね。」
裕也は鼻の頭を掻きながら少し照れていた。
「なにそれ!?オーナーは知ってるの?よくそんな理由で採用したね!?」
奈々子の正直な意見だった。
「オーナーも奥さんもコンビニのバイト先で知り合ったんだってね。まぁ、がんばれよって。いろんな意味で。」
オーナーの顔が目に浮かぶ。
確かにそうだった。オーナーが大学生の時に奥さんとコンビニで知り合ったって言ってたっけ
。
「ということで、、、話が戻るんだけど、、俺は簡単にメアド教えたりしないやつだよ?奈々さんは平気みたいだけど」
皮肉たっぷりに裕也が言った。
「私だってっ!裕也君だったからメアド聞いたんだもん。他の人だったら聞いたりしないよ」
「なんだ、奈々さんも俺のこと好きなんじゃん」
悪戯っぽく裕也が笑う。
「まだ、好きだなんて言ってません」
「そっか、じゃあ今度聞かせてよ。待ってるから。だいたい今仕事中だしね」
「そうだっ!仕事中だぞ、お前ら。そんな事は上がってからやってくれ」
「オーナー!?」
「オーナー!?」
いつの間にかやって来ていたオーナーが笑いを堪えながら立っていた。
今のやりとりをいつから聞いていたのか知らないけど、すごく恥ずかしいんですけど。
「こんなに時間がかかるとは思わなかったけど、公私混同しないようにな。」
すべてを悟っているオーナーが仲人のような口ぶりで言った。
「はい。もちろんです」
裕也が元気よく大きな声で答えた。
「はい、気をつけます」
つられて奈々子もそう答えた。
それを聞いていた裕也が吹き出した。
「やっぱり、俺のこと好きなんじゃん」
奈々子は真っ赤な顔で口を尖らせた。
fin.