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箱舟(RDG 未来捏造)

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神殿に戻ると、侍女が、姫の御前に上がるよう告げた。
侍女に急かさるがまま、姫の元に急いだ。
「おやおや。帰って間もなく、お召しとは姫君から寵愛いただいているようで何より」
バルカの部屋は神殿のごく手前にある。そこから、姫が居まします奥の間までは、歩いて10分はかかる。それほど、神殿は広く、2人の距離は遠かった。
奥へと続く中央の廊下を歩いていると、柱の影から久しぶりに聞く声がした。
「イシス…あんた、女子供しかいない神殿をフラフラしてて、よく捕まらないな。」
「はは。誰も告げ口などしないよ。ここの侍女達はみんな可愛い人ばかりだから。」
ねぇ?と問いかけるように、バルカを先導する侍女に目配せをする。
侍女は少し顔を赤らめ、目を伏せた。
「相変わらず、見境がないな。」
元飼い主の節操のなさには昔からバルカを苛立たせた。
「まぁ。いいや。色々聞きたいと思っていたんだ。」
「なんだい?僕の可愛いバルカくん」
バルカはイシスの軽口にますます目つきを鋭くした。
「俺はあんたの物になった覚えないんだけど」
「そうだったねぇ。僕が何度迫っても、上手く逃げるのだもの。他の子はみんな僕に恋してくれたのに」
バルカは盛大な溜息をついた。
「それが原因で奴隷同士の殺生沙汰までなったじゃないか。懲りない男だな。…それより、どういう思惑があるんだよ。」
「…思惑って何が?」
「…あんたは、10歳前後の奴隷を大量に買い上げては磨き上げる。
容姿が良いものは貴族へ愛妾として、武道に秀でたものは軍人の家に…あらゆる分野の権力者に送っているだろう?この国の権力を握りたいんだ。しかし、今まで神殿へは送り込んだことはなかったはずだ。ここに、権力はない。ここは、形骸化された儀式を司るだけだ。俺の見た限りでは、姫神は、王の命に神託という理由をつけるためだけに存在する。けど、姫神は…身分こそ高いが、ただの飾りだ。彼女に王はコントロールできないぞ。」

「だが、こここそが世界の中心であり、爆心地だ。彼女が本当にか弱い少女だと思っているなら、まだ甘いよ、バルカくん。それから、言葉遣いには気をつけなさい。僕は、確かに君を手放したから主人ではないけれど、それなりに、君の処遇を変えられる立場には未だにいるのだからね。」
「爆心地って?!どういう意味だよ?」
言葉遣いを注意されたことについては、バルカは気に留めていない。
「はは。バルカくん、君、姫君に呼ばれてるんじゃなかった?」
うわ、やっべぇと小さな声でつぶやき、バルカは先へと走り出した。
ふと、振り返るとイシスはそこにはいなかった。

「遅かったな。バルカ」
「も、申し訳ありません!」
姫神の言葉にバルカより先に侍女が謝る。
「まぁ、良い。アカデメイアはどうだ?」
「ええ。

「今日はそなたにこれをやろうと思ってな。」
そう言って姫が手を挙げると、1人の侍女が進み出た。両手に白い衣を抱いている。
「アカデメイアの制服だ。遅くなったな。」
「はぁ。」
少し間の抜けたタイミングだなとバルカは思った。
どうせなら、登校初日に間に合うようにして欲しかった。
とりあえず、衣を受け取り広げる。白い木綿の長袖、丈はくるぶしくらいまである。袖の裾には青い糸で刺繍がされていた。ウエストを縛るための麻紐もあった。紐の先には刺繍と同じ色のガラス玉。
よくよく刺繍をみると、少しほつれ気味なところがあり、素人が作ったみたいだ。
「…まさか、この刺繍って?」
「…すまぬ。よけいなことだった…」
姫が、少しむくれた様子で目を逸らす。
「何事も一足飛びには上手くいきませんよ。ちなみに、この刺繍のモチーフは?」
「…ジャスミン。」