エイユウの話~冬~
「何を隠してるの?何を誤魔化してるんだよ!」
キースは不安だったのだ。キサカをおかしくしている元凶が、自分なのではないか?自分を助けるために無理をしてるんじゃないか?この場に来なかったラジィやアウリーに、何かあったんじゃないだろうか?そう考えるととても怖かったのだ。
怒られたキサカは少し気まずそうに、クルガルの方に目を逃がした。けれども彼女にも睨まれていて、逃げ場を失ってしまう。がりがりと乱暴に頭を掻き、それでも笑った。
「お前こそどうしたんだ?俺は何も変わってないだろ?」
「変わったのはお前だろ」。そう言われた気がして、キースは確信した。普段のキサカなら、こんなこと言わない。こんな、相手が傷つくかもしれないと予想できるようなことを。それでも自分が変わってしまった可能性も捨てきれず、暗闇に放り出された気分になった。
呆然とするキースに、キサカは遅れて言葉の裏の意味に気付く。状況的に追い詰められた彼に、白い室内が追い打ちをかける。
「あ、いや・・・そういうわけじゃなくて・・・」
言葉巧みに弁解するのは得意のはずだった。それなのに、さっきと同じで言葉が全く出て来ない。空間と彼の契約魔のプレッシャーを前に、歯車がギシギシと音を立てて回った。
気まずくなったキサカは、くるりと向きを変えて外に歩き出す。弁解できない上に逃げ出すという彼らしくない行為に、キースは彼の異常を確信した。それでも何も出来なくて、純白の中コンクリートの床を茫然と見つめていた。これ以上呼びとめることも、問い詰めることもできない。優しい彼に出来るはずがなかった。
出る直前、キサカが唐突に口を開いた。
「キース」
呼びかけられて顔を上げると、初めて見る、泣きそうな顔のキサカがいた。入口の持つ濁った色味を背負って、彼は無理に笑う。