エイユウの話~冬~
「あったよ。緑の第三棟四階だね。場所は・・・あんたんとこで言うと四十九号室の位置だね」
「緑の第三棟ってどこ?」
「緑樹館のことさ。寮までの道に看板が立ってるだろう?」
この学園の寮には、全て寮名がついている。そしてその寮名が道案内の標識には書いてあるのだ。外装がまったく同じのため、迷う生徒が続出したことから始まったらしい。ちなみにキサカが住んでいるのは明の第二棟で、陽灯館という。
お礼を言ってキサカが行こうとすると、おばさんに呼び止められた。
「今は深入りしないほうがいいよ」
ここで働いている人ももちろん法師で、大体が心の魔術を使用する人たちだ。このおばさんも、例外ではなかった。
それを知っているキサカは、奥にある術師課職員用の机においてあるものを指差して笑う。
「それって、風晶のお告げ?」
アドバイスを小馬鹿にしたようなキサカに、おばさんはむっとしながらも肯定した。魔術はどれも、長い年月をかけることによっていっそう磨かれる。中年というには老いていて、年配というには若いというあいまいな年頃というだけで、このおばさんの魔術の正確さを知ることが出来た。が、歳月をかけた魔術も、キサカの楽観視には敵わなかった。
「心配どーも。でも心配しすぎは体に悪いぜ?」
そういって彼は「緑樹館」とくり返しながら、術師課を出て行った。