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風のごとく駆け抜けて

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「そうですね。自分もお腹空きましたし。なんか簡単に作りますね。朋恵、この前と同じようにテーブルお願い」
この部屋の主は、それだけ言うと、台所に向かう。

朋恵がベッドの下から折りたたみのテーブルを出し始める。
こんな所にテーブルを片付けていたのか。

別に姉のためとかではなく、純粋に知識として、紘子から片付け術を学びたいと思った。

だが、10分後には、それよりも料理術の方が先かも知れないと感じる。

テーブルの上には、チャーハンと野菜炒め、それにコロッケが並んでいた。

「昨日偶然コロッケをいっぱい作ったんですよ。さぁ、食べましょう」
食べましょうと言われて、手を動かしたのは当の本人と朋恵だけだった。
私達はあまりの手際の良さにあっけにとられていた。

「あの……料理冷めますよ」
朋恵が不安そうに見て来る。
それと同時に私達も、いただきますと言って食べ始める。

一口食べてはっきりと分かる。
紘子の料理の腕はかなりすごい。野菜炒めは噛めば噛むほど野菜の旨みが出て来る。チャーハンにいたっては、口の中で溶けそうなくらいに柔らかい。

「紘子。あたし、あなたの作った味噌汁が毎日飲みたい」
あまりの美味しさに、麻子はプロポーズまでする始末だった。

「いや、でも紘子ちゃんはすごいかな。料理は出来るし、頭も良いし、おまけに足も速い。これは男子がほっておかないかな」

なぜかにやにやしながら晴美が紘子にちょっかいを出す。
でも紘子は、いたって冷静だった。

「別に自分、男に興味ないですから」
「さすが、全中2位は言うことが違うわね。うちもそれくらいの気持ちで頑張らないと、足が速くならないのね」

口ではすごくまじめなことを言っている葵先輩だが、箸は3つ目のコロッケに伸びていた。

いや、コロッケは確か14個しかなかったはず。
今ここにいるのは全部で7人。
つまりは1人2個のはずだが……。

それとも理数科クラスの人にしか計算出来ない方程式があって、それを解くと葵先輩のコロッケの数は3つと言う答えが出るのだろうか。

「そう言えば……。先輩方は彼氏さんとかいらっしゃるんですか?」
朋恵の質問に私達全員の箸が止まる。

「ともちゃん、わたし達は駅伝部なんだよぉ?」
「はい……。それは知ってます。あ、もしかして恋愛禁止とかですか?」
紗耶の一言に朋恵が少し声を強めて返す。

「少なくとも、駅伝部を立ち上げた時には禁止にした覚えは無いわね」
「えっと、今彼氏がいる人は正直に手を上げて欲しいかな」
晴美の質問に誰も手を挙げない。

私が周りを見渡すとなぜか紘子と眼が合った。

「と言うか、正直あたし今彼氏を作ろうと言う気にならないんですよね。高校に入ったら走ることに一生懸命で、夏休みは合宿とかあって、秋になったら駅伝に全力を注ぎ、残念ながら昨年は夢叶わず。だから今年こそはと言うこの時期に彼氏はちょっと。そんな暇があったら走ってたい」

麻子の発言に紗耶と葵先輩も同意を示す。
正直、私も似たような意見だ。

「でも1年生は素敵な男子がいたら頑張って欲しいかな」
「だから、自分男に興味は……」
「あの……相手にも選ぶ権利があると思うんです。私じゃ相手が可哀想です」

あ、これは駅伝部全員彼氏は出来そうにないな。
私は何となく、予感めいたものが頭に浮かんだ。

「永野先生はどうなんだろう。彼氏さんいるのかなぁ」
「紗耶? それを聞いていなかった場合、あなた死ぬわよ?」

麻子の冗談とも本気とも取れる発言に、紗耶も「たしかに怖くて聞けないよぉ」と納得をしていた。

御飯を食べ終わった後、紘子が洗い物をすると言うので、私達は部屋でゆっくりとしていた。

こう言う時の定番と言えば、部屋の散策だ。

「うわ、見てこれ。紘子の髪が長いんだけど」
麻子が驚きながら、私にアルバムを見せて来る。

そこに写っている紘子は小学生の低学年くらいだろうか。
姉と思われる子供と一緒にピースをしていた。

あなたはお姫様ですかと言いたくなるような、ひらひらとした長いスカート履き、髪は腰近くまであった。

「こう見えて、昔は大人しくて、スカート大好きで、本当に女の子女の子してましたよ。5年生になって地域の陸上クラブに入って変わりましたね。逆に今はこっちの方が落ち着きます。もう、その姿に戻ろうとは思いませんし」

洗い物を終え、紘子が戻って来て私達に教えてくれる。
紘子の説明を聞きながら、私はある物を見つけ手に取った。

「あ、私もこのCD持ってる。いいよね、さくらみやこ。私も好きだよ」

私の一言を聞き、紘子が「えっ?」と声を上げ、なぜか顔を真っ赤にして台所へ再度戻っていった。

それを見て、私の後ろで晴美がくすっと笑う。
私、なにかへんなこと言ったっけ? 自問自答をしようとすると、けたたましい悲鳴を上げてまた紘子がこちへ来る。

「いた! いたんですって! 流しの下に! 嫌、本当に無理だし」
「落ち着きなさいよ紘子。なにがいたの?」
「あぁ、今ので分からない辺り、麻子は台所にあまり立って無いのがばれるかな。こう言う時はゴキブリと相場が決まってるもんだよ。私も苦手なんだけど」

段々と声を小さくしながら晴美が説明する。
私もさることながら、どうも葵先輩と紗耶も苦手らしく、動こうとしない。
いや、動けないと言った方が良いのか。

「あの……。ひろこちゃん、これ借りるね」
朋恵は部屋の片隅置いてあった古新聞を手に取ると、それを丸めながら台所へ歩いて行く。

パン! パン! パン! パン! パン!

なんとも豪快な音が響く。

「えっと……。叩いた新聞に包んで捨てたから大丈夫だよ。てか、みなさん苦手なんですか?」
みんなが朋恵の問いに頷くしかなかった。
と言うより、ゴキブリが平気な朋恵と言うのがすごく意外だった。

「朋恵すごい。結婚してほしいかも」
麻子にいたっては、本日2度目のプロポーズをしていた。