風のごとく駆け抜けて
今回の宿泊所も選手権と同じ古びた……。
いや趣きのある宿だ。
入口でまず最初に気付いたのは城華大付属の名前が無いこと。
てっきり今回も同じだと思っていた。
永野先生にそのことを言うと、あっさりとその理由が返ってくる。
「駅伝の時だけは、別の旅館を使うんだ。なんでも、ある年にこの旅館が使えなくて、別の旅館に泊ったら、都大路に初出場出来たらしくてな。私の時も駅伝の時だけはそっちの旅館だったぞ」
その説明を聞き、チェックインをして部屋へと行く。
偶然なのか、永野先生が指定したのかは分からないが、選手権で泊った時と同じ部屋だった。
もちろん部屋割りも、永野先生と由香里さんで一部屋、私達全員で一部屋だ。
その後、全員で軽めのジョグへ出かける。
明日が駅伝本番なので本当に軽くだ。
帰って来ると永野先生が玄関で待っていた。
「お前ら、そのまま風呂入ってこい。もう旅館の人に許可は取ってあるから。風邪を引いてもらっても困る」
その一言を聞き、みんなでお風呂へ、その後に夕食。
食べ終わるとミーティングとなった。
駅伝と言うこともあり、長いミーティングになるかと思いきや、永野先生の話はあっさりとしたもので拍子抜けしてしまった。
「常々言って来たが、うちは初出場だからな。失う物は何もない。とにかく積極的に攻めて行こう。後手に回る必要は全くない。常に、挑戦者だと言うことを忘れるな」
その一言と、各個人に簡単なアドバイスを言うだけで、ミーティングは終了となる。
ミーティングが終わり部屋に帰って、みんなと少しだけ話をする。
麻子はアンカーと言うこともあり予想外に緊張していたし、紗耶も自分の走力を不安がっていた。
逆に久美子先輩は特に緊張した感じも無く、葵先輩にいたっては麻子と紗耶を励ます余裕を見せている。
あまりみんなには言えなかったが、私は緊張などまったくなく、むしろワクワクを押さえる方が大変なくらいだった。
ついに、このメンバーで都大路をかけて戦えると言う思いからなのか。
それとも、生まれて初めて走る1区が楽しみなのかは分からないが。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻