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風のごとく駆け抜けて

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「おめでとう」
そう言われて私は表彰台で賞状を受け取る。

表彰台の一番高い所に登るのは1年振りだ。
それも高校生になって初めてのレースでの1位。

あまりの嬉しさに私は笑みが止まらなかった。

特に、この1年間は県チャンピョンになった後に父から高校での部活を反対され、推薦をすべて蹴り、陸上部のない桂水高校へ入学。

と、前半は私にとって、生きる意味すら分からなくなるくらい、暗いものだった。

でも、そこから女子駅伝部を見つけ、麻子に説教を受け、父と喧嘩し、駅伝部に入部。そして、今、こうしてここに立っている。結果だけを見れば、前半を打ち消して、なお余るくらい後半が充実していた。


父も最初は、私の部活に対しては何も聞いて来なかったが、私が姉の所から帰って来た辺りから、少しずつ色々と聞いてくるようになった。

私も、最初は聞かれたことだけを答えていたが、徐々に自分から今日の部活での出来事も話すようになっていた。

ただ、勉強については、厳しいまま。
最初の定期テストの結果を報告した時は、生きた心地がしなかった。

それでも、父はこの試合に出かける前にも「頑張って来いよ」と見送ってくれた。

もう一度、1年前からやり直せるとしても、私はきっとこの道を選ぶに違いない。

それほどまにで、私にとって桂水高校女子駅伝部は大きな存在になっていた。
だからこそ、このメンバーで都大路に行きたいと、最近は強く思う。

そのせいだろうか。
表彰式が終わり、玄関ホールの隅に山崎藍子が立っているのを見た時に、真っ先に出て来た言葉が「都大路は私達が行くから」と言う言葉だった。

「何を言っているの? 澤野聖香。その前に……おめでとうの一言くらい言わせて欲しいのだけど」
藍子の顔を見ると少しだけ拗ねていた。

「準決、決勝と走る姿をみて安心したわ。走力は落ちてないようね」
「あ、ちゃんと見てくれたんだ。ありがとう」
それを聞いた藍子は苦虫を噛み潰したような顔で私を見る。

「ふん。私が自分の手で叩き潰したい相手が、勝手に自滅したんじゃ面白くないでしょ。ただそれだけよ。それと、都大路は絶対に渡さない。確かにあなたのいる桂水高校も良いチームだと思う。でも、それだけ。私達が負ける要素はなにもないわ」

自分の言いたいことだけを言い、藍子は私の方を振り返りもせずにすたすたと歩いて行ってしまった。

仕方ないので私もみんなのところへ戻る。

帰ると、みんなが私の賞状をみて大騒ぎを始めた。

晴美が持って来ていたデジカメで集合写真を撮ったり、私個人で写真を撮られたり、麻子にいたっては、「サインをお願いします」と私にボールペンを差し出して来た。

最初、おでこに何か書いてやろうと思ったが、晴美に止められてしまう。

「さて、みんなもう良いか?」
永野先生の一言に私達は騒ぐのを辞め、自然と先生の周りに集合する。

「まぁ、今回は1年生にとってはデビュー戦となったわけだが……。正直、予想以上に良い走りだったと思う。本当にみんな、ここまで大きな故障も無く、練習をこなして来てくれた」

その後も、各個人個人に対して、永野先生が気付いたアドバイスなどが言われる。

それも一通り終わったあとで、別の要件が伝えられる。

「急な話だが2週間後に全員でナイター陸上記録会の3000mに出場することにしたから。その結果で区間を決めたいと思う。それと、城華大付属との現状の力差をしっかりと把握してもらう意味もあるからな。言っておくが、チームとしてみた時に桂水と城華大付属は天と地ほどの差は無いぞ。私はあくまで都大路に出るための練習と指導をして来たんだ。駅伝も段々と迫って来ているが、まずは心で負けないこと。相手も同じ高校生だ。まずは、勝つんだ! 勝てるんだ! と言う気持ちをもて」

私達が全員そろって返事をすると、「よろしい。私からは以上」と永野先生が話を閉める。
 その直後に麻子が私に耳打ちをして来る。
「ねぇ、ナイターってどう言うこと?」
「言葉通りの意味よ。夕方の涼しい時間帯から記録会をやるの。涼し分記録も出やすくなるわね」
 私の説明に、「大会って夜でもやるんだ……」と麻子は目を丸くしていた。