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風のごとく駆け抜けて

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由香里さんの車に10分程揺られ、宿泊所の旅館に着く。

「これは……なんて言うのかしら。良い意味で言うなら趣のある旅館ね」
「つまり古い。いや、これはぼろい」
必死に言葉を選ぶ葵先輩に対し、久美子先輩がストレートに感想を言う。

「まぁ、私が高校生の時からある旅館な上に、外装は当時と何一つ変わって無いしな。当時私達も初めて見て言葉に詰まったが、まさか改築や改装をしてないとは……」
永野先生も苦笑いしながら旅館の入り口を眺めていた。

「なるほど。だからこう言うことになるんだ」

麻子が1人で何かを見て納得している。
気になって、麻子の後ろから覗き込んで見ると、「歓迎『桂水高校駅伝部』様」と書かれた看板の2つ横に「歓迎『城華大付属陸上部』様」と書かれた看板が立てられていた。

「え? 阿部監督、今でもここを使ってるのか」
真顔で驚く永野先生。どうやら本当に知らなかったようだ。

とりあえず玄関先に立っていてもしかたないと言うことになり、旅館へと入る。

永野先生は部屋割りを考えるのが面倒くさかったのだろうか。
永野先生と由香里さんで一部屋。私達6人で大きな一部屋と言う、ものすごく簡単な部屋割りだった。

「わたし、廊下側が良いんだよぉ」
「ちょっと紗耶! なに勝手に決めてるの」
「じゃぁ、私はテレビの前かな」
「それは先輩に譲るべき」

部屋に入るなり、みんな寝る場所の取り合いを始める。
初めての遠征宿泊でテンションが上がっているようだ。

全員での宿泊は夏合宿でもしているのだが、あの時はきつすぎてそれどころでは無かった。

「ほんとお前ら元気だよな」
 いつの間にか、永野先生がやって来ていたらしく、私達の姿を見てため息をつく。

「たのむから、こういう時に怪我だけはしないでくれよ。駅伝は全部で5区間。つまりうちの駅伝部は補員がいないんだ。誰かの怪我はそのままチームの棄権を意味するからな。あ、それと食事は1時間後の18時から2階の大広間な。風呂はその後自由に入ってくれ。ミーティングを20時からやるから、それまでには済ますように」

用件だけ使えると、ふすまを閉めて永野先生は部屋から去って行った。

私達はその後も寝る場所を決めるために、かなりの時間を要し、気が付けばもう18時になる寸前だった。

急いで2階の大広間に行くと、すでに数名の人がいた。
しかもよく見ると城華大付属の陸上部だ。

「加奈子先輩、優勝おめでとうございます。すごい走りでしたね」
葵先輩が、城華大付属の宮本さんを見つけ、優勝を称えていた。
そう言えばこの2人は中学の先輩、後輩の間柄だ。

「澤野聖香。私の走りをしっかりと目に焼き付けたのかしら?」
後ろから私を呼び声がする。
振り向かなくても、その声が山崎藍子であるのは明白だ。

「見たわよ。2位おめでとう。で、私の走りは見てくれたかしら?」
「え……。あ、明日見てあげるわ。決勝で。私に見て欲しかったら、決勝まで残りなさい」

どうも私の予選の走りは見ていなかったらしい。
でも私が予選で落ちたとは、これっぽちも思ってないあたりは山崎藍子らしかった。

そんな山崎藍子に、「素直じゃないなぁ」と声を掛ける一人の城華大付属の選手。

その顔を見た瞬間に、見覚えがある感じがした。
私がそう思うと同時に、後ろから紗耶が声を上げる。

「あれぇ? きじゆーだよぉ。え、今城華大付属にいるのぉ? 今まで気付かなかった」
「えぇ! さやっち? うそ、桂水高校なんだ。てっきり、聖ルートリアか泉原学院のどちらかで決まってると思ってた」

その見覚えのある選手が、驚いた顔で驚きのセリフを口にする。
紗耶が聖ルートリアや泉原学院に行くと思っていた? それってつまり……。

「いやぁ、両校から推薦自体は来てたんだけどねぇ。ってそれは中学で最後に会った時に話したよねぇ。どちらにも、見学に行ったんだけどぉ……。なんか肌に合いそうになくて。両方断っちゃったよぉ。その後は色々あって今は桂水高校の女子駅伝部だよぉ」

「え?紗耶、聖ルートリアや泉原学院から推薦来ていたの?」
「決勝? 紗耶ってそんなに速かったの?」
葵先輩がビックリした顔で紗耶に質問する。
麻子にいたっては口を大きく開けて驚いていた。

「あれぇ、わたし話たことありますよぇ?」
紗耶が不思議そうな顔でこっちを見る。

私も含め、桂水高校駅伝部全員が首を横に振る。
それを見て紗耶は苦笑いしていた。

「いまさらですが、実はわたし推薦来てたんですよ。でも、今話したとおり、結局断ったんですけどねぇ。で、こっちは貴島由香さん。中学の時に、よく1500mの決勝で競り合ってたんですよぉ。まぁ、あまり勝った記憶はないんですけどぉ」

紗耶に言われて思い出した。
そうだ、どこかで見たことがあると思ったら、中学の1500m決勝で見たのだ。

「それにしても、中学生の時に決勝ではるか前を走っていた、藍子とか澤野さんと同じチームってお互い変な感じだよね、さやっち」

なんだか恥ずかしそうに私と藍子を見て、貴島由香は笑いながら紗耶に同意を求める。

紗耶も、「だよねぇ。わたしも部活紹介で、眼の前に聖香がいた時は、本当に驚いたんだよぉ。中学の時は、決勝前とかに会っても声も掛けられなかったし」と嬉しそうに貴島由香に喋る。

貴島由香は、うんうんと何度も頷き、そのセリフが間違っていないことを認める。

「確かに。藍子と澤野さん、あと市島さん。3人は走りも別格だし、いつも3人でいて声掛けにくかったしね」
「私達って、そんな感じに見えたの?」
「由香。大げさに言わないで。確か私、一度あなたと話したことあるわよ」

貴島由香のセリフに、私と藍子はお互いの顔を見た後で意見を述べる。