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風のごとく駆け抜けて

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高校選手権当日の朝。
集合場所である校門前に、永野先生の幼馴染である由香里さんがいたことに驚いた。

「綾子に頼まれたのよ。車出してくれって」
言われて校門のすぐ横にある先生方の駐車場を見ると、合宿の打ち上げ後、私達を家まで送ってくれるのに使った、10人乗りのハイネースが停めてあった。

その横で、永野先生がどこかに電話を掛けている。
少し遠くなので何を話しているか分からない。

と、私を見つけると、こちらに向かって歩いて来た。
歩きながら電話切ると、笑顔でこっちに手を振って来る。

「おはよう澤野。早いな。あ、由香里。学校の許可取れたわよ。今日から由香里は正式に桂水高校駅伝部の副顧問よ」
永野先生が笑顔で由香里さんに言うが、由香里さんはものすごく不機嫌そうだ。

「ちょっと綾子。分かるように最初から説明してもらえるかしら」
鬼のような形相にさすがの永野先生もたじろぐ。
あの永野先生を怖がらせる由香里さんって、もしかしてすごい人なのだろうか。

「うちの学校。生徒を大会にに連れて行くのは顧問しか認められていないのよ。でね、それとは別に、うちの学校って部活数が多いから、専門知識を持った教師が揃わない場合を想定して、外部顧問制度ってのがあるの。つまり、由香里をこの制度で駅伝部の副顧問にしてしまえば、自動的に由香里の車で試合に行けると言うわけ」

「綾子! あんた、私の車が目当てだったのね! なによ、打ち上げて会った子達が走る姿を見てみない? って言葉巧みに誘って来ておきながら」

永野先生の説明に由香里さんは不満たらたらだ。
後からやって来た紗耶や麻子はそれを見て「なにこの光景。痴話喧嘩?」と笑っていた。

そう、永野先生と由香里さん、どう見ても本気で喧嘩しているようには見えなかった。幼馴染だし、2人にとってこれくらい普通のことなのだろう。

ちなみに今回の大会で一番不思議な所は、3000mはタイム決勝、1500mはタイム予選と決勝、800mは普通に予選、準決、決勝と中長距離3種目で試合の形式が全て違うことだ。

1500mに出場する麻子が、タイム予選の意味が分からないと言うので「着順に関係なく予選を走った全選手のうち、タイムが早いものから上位規定数までが決勝に進出出来る方式のことを言うのよ」と、説明をしておいた。

確か、総体の時に説明したと思ったのだが、麻子いわく「タイム決勝は聞いたけど、タイム予選はきいてない」だそうだ。

ちなみに初日の一発目から800mの予選があり、その日は3000mの決勝もある。2日目には800mの準決、決勝と1500mの予選、決勝。

つまりは、私が一番最初と言うわけだ。

競技場に着き、みんなでスタンドにシートを広げる。
そこに荷物を置くと私はすぐにアップの準備を始める。
初日の一発目の種目は結構バタバタするのであまり好きではない。

「そうだ。澤野、ひとつ言い忘れた。たとえ予選、準決で先頭に立とうが、手を抜くことは一切禁止な。あくまで優勝を目指してもらうが、スピード練習の側面もあるから、3本ともガンガン行け」

ここに来てハードルがさらに上がった。
まぁ、反論も認められそうにないので、素直に了承の返事をしてアップへと出かけることにした。

「しっかり頑張ってね。これが聖香の高校デビュー戦よ」
葵先輩がそう言って送り出してくれる。

そうだ。
この予選が私にとって高校デビュー戦。
そう考えると予選からガンガン行くのも悪くない気がして来た。

スタンド裏の通路を通って外へと繋がる階段を下りていると、私とは逆に階段を上がって来る山崎藍子に出会った。

「澤野聖香! あなた私が総体の時に言ったことを忘れたのかしら? 直接対決で叩きのめしてあげるって言ったのに、なんで800mなのよ」
「いや、顧問の先生に言ってよ」
不機嫌そうな山崎藍子に、私はため息交じりに返答する。

ここで騒いでも無意味なことを分かっているのだろう。
私が一言言うとあっさりと機嫌を直す。

「まぁいいわ。直接対決の時に叩きのめしてあげる。ちなみに私の3000mはしっかりと見とくことね。そして私とあなたの実力差を思い知りなさい」

捨て台詞を吐き捨てて、山崎藍子は階段を登って行った。
なんと言うか、こう言うところは中学生のころからまったく変わって無い気がする。