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風のごとく駆け抜けて

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店を閉め、みんなで美術室に行く。
晴美が作った作品を見るためだ。

晴美は駅伝部と美術部を兼任しているものの、割合的には駅伝部に顔を出していることの方が多い。

一度、そのことについて晴美に聞いてみたのだが、
「大丈夫。その辺は美術部の先生とも話がついてるから。それに私が今やりたいことって学校より家の方が捗るかな。むしろ、美術部に顔を出してる時は例の全国高校駅伝ポスターの図案を考えたりしてるだけかな」
そう言って笑っていた。

美術室に着くと晴美が扉を開けて一番に入って行く。
中は2、3人程展示を見ている人がいたが、いたって静かだった。

「あの一番奥にあるボードの、上段右端が私の作品」
晴美が指差す方を見ると、ランナーの姿が描かれた縦書きの絵が飾られていた。

絵の中のランナーは全体的に躍動感に溢れ、今にもこっちの世界に飛び出して来そうだった。

ランパンとランシャツが揺れ、風を切って走っているのが容易に想像できる。
胸元などから女性ランナーであることは分かるが、女性でありながらも力強い腕振りをして、細い体ながらもしっかりと筋肉が付いてる。

まさに力強さと、しなやかさが共存しているといった感じだ。

「すごい良い走り……」
私は自然とそんな言葉を口にする。
が、みんなが一斉に私を見る。

「意外に自分では気づかないもんだねぇ」
「どう見ても聖香」
「あんた自分の走り見たことないの?」
「ほんと。どっからどう見ても聖香のフォームね」
みんなが口々に意見を述べる。

「え……。でも顔が全然違う……」

「そりゃ、そのまま本人ってわけにもいかないから、顔ぐらいちょっといじったかな。まさか、聖香が自分だと気付かないとは。かなり予想外かな」
晴美にいたっては若干困っていた。

「これ、夏合宿の時のインターバルをやってる時の聖香の写真が元になってるの。てか、この作品の見どころは、近づいたら分かるかな」

晴美がみんなの背中を押しながら、絵の方に近付く。

「あ、よく見たら小っちゃい写真がいっぱいだ。なるほどぉ。小さい写真がたくさん集まって大きな絵が出来てるんだねぇ。よく見たら、肌の部分はグランドの部分だったりするんだよぉ」
「あら? これは総体ね。あ、部室で撮った写真も」

「合宿のもあるし、普段の練習風景も。晴美あんたいつのまに撮ったの?」
麻子が不思議そうに晴美を見る。

晴美が普段からデジカメを持ち歩いていたのは知っていたが、こんなにも写真を撮っていたのは私も知らなかった。

この一枚の大きな絵の中に3000枚近い写真が入っているのではないだろうか。

その証拠に、撮られた私達がカメラ目線の写真は、全体の一割くらいしか見当たらない。

「こう言うのモザイク画って言うんだって。ちなみに私、この作品は全部パソコンで編集してるし、絵もまったく描いて無いかな。写真を集めて、加工しただけ。こう言う芸術もありかなって」

晴美は少し照れくさそうに自分の作品の解説をする。
その後、紗耶がこの絵を欲しいと言いだすと、「印刷するだけだから明日にでも渡せる」と言う晴美の一言で他のみんなも欲しがり、結局私も含め全員に配ってくれることになった。

でも、自分がモデルというのは正直、ちょっと恥ずかしいものがあった。

そして、文化祭2日目。
私のミス桂水効果は相変わらずで、朝から駅伝部の模擬店は行列が出来ていた。

この日も2回ほど永野先生が買出しに走りに行ったものの、12時にはすべて完売。

あまりの忙しさに、葵先輩が「もうこれで閉店にしましょう。これ以上は無理!」と叫ぶと誰も反対しなかった。

ちなみに私はこの日も、水着姿で写真に握手、サインと大忙しだった。

こうして2日間の文化祭も無事に終了。
駅伝部の模擬店は、『売り上げ校内1位』と言う結果に輝いた。

「まさに聖香のミス桂水効果ね。ちなみに明日になったら魔法は溶けるから」
葵先輩が何を言っているのか、最初はまったく分からなかった。

しかし、文化祭が終わり、次に学校に登校して私はその意味を知る。

けいすい祭の最中はあれだけ騒がれていたのに、通常生活が始まると、私を見て騒ぐ人は誰もいなかった。

まるでミス桂水がなかったかのような雰囲気だ。

「面白いでしょ。あのミス桂水って効果を発揮するのは文化祭の最中だけなのよ。それが終わるとまったくの無意味。不思議よねぇ。去年もそうだったし」

葵先輩が笑う。それが分かってる葵先輩って、もしかして昨年の……。そう思って聞いてみたが、「さぁねぇ」と、はぐらかされてしまった。

差出人:澤野聖香
題名:文化祭で
本文:
昨日今日、うちの高校文化祭だったんだけど、なぜか私がミス桂水高校に選ばれてしまった。ほとんど運だけで……。ものすごく恥ずかしかったよ

差出人:市島瑛理
題名:えっ!
本文:
恥ずかしがることないじゃん。さわのん可愛いもんね。一緒にいると、あまりの可愛さに抱きしめたくなる

差出人:澤野聖香
題名:いやいや
本文:えいりんは何をいってるのかな? 

差出人:市島瑛理
題名:うん?
本文:さわのんラブって話だよ?(笑)