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風のごとく駆け抜けて

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「やっぱり、上には上がいる」
ゴールシーンでDVDを一時停止して、久美子先輩がため息交じりに言う。

「いや、久美子。それはせめて一度でも日本一になってから言うセリフじゃないかしら」
そんな久美子先輩に葵先輩は冷静にツッコミを入れる。

「いやぁ、でもすごく感動したかもぉ。わたしもあんな風に走れるようになりたいんだよぉ」
「だね。あたしも思った。明日からの練習に俄然やる気が出た」

紗耶と麻子は、高校3年時の永野先生の走りを見てやる気を出していた。
その2人の発言に葵先輩と久美子先輩も頷く。

でも、私はちょっと別の感情を抱いていた。
確かに永野先生の走りはすごかった。
目標にしたいと言うのは、他の部員と何ら変わりはない。

ただ、みんなは当時の永野先生に対しての憧れを口にしていた。

私が思ったのは、当時あんな走りをして、実業団に入り、その後教員となって、今私達に指導してくれている永野綾子と言う人物に対しての憧れだった。

私もあんな走りがしたい。それだけではなく、その経験を生かして私も永野先生のように指導者になってみたいと感じていた。

それこそ、同じ高校教師として、都大路を目指して。

 定期テストの時、晴美に言われた。
将来の目標があれば、勉強も頑張れるのではと……。
あの言葉が今は正しいと理解できる。

永野先生のようになるためには勉強も必要だ。
よし、少しずつで良いから頑張ろう。心の中でそう決心したその時だった。

「いた。お前らいったいこんな所でなにしてんだよ。部室に行っても誰もいないし、校内放送で呼んでも職員室に来ない。さらには大和や恵那の携帯に電話しても出ないし。学校にいる生徒に聞きまくって、やっと見つけたぞ」

美術準備室のドアを勢いよく開けて永野先生が入って来た。
今、永野先生のようになりたいと思った矢先に本人の登場である。

私は恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまい、ばれないようにそっと顔を下に向けてしまった。

「ごめんね。お父さんに頼まれてたんだ。綾子お姉ちゃんが高校3年生の時の駅伝のDVDを渡すようにって。みんなが見たいっていうから見てた。綾子お姉ちゃんかっこよかった」

その一言に永野先生が「えっ!」と驚きの声を上げる。

「うちら、ほんとうに感動したんですよ。もう、明日からの部活もやる気十分です」
「はい。都大路目指して、明日から死ぬ気で頑張ります」

葵先輩と麻子が目を輝かせながら永野先生に訴える。
でも、当の本人はすごく気まずそうだった。