風のごとく駆け抜けて
「おっと、これはアクシデントか! 残り400m。城華大付属の石川がお腹を押さえて、一瞬立ち止まるような感じになりました。これは大丈夫か? 止まりかけたようにも見えましたが、どうにか走っています。しかし、これは誰の眼から見てもあきらかに失速しています。石川が失速しています。石川苦しそうだ。1年生ながら、強豪城華大付属でレギュラーを勝ち取った石川ですが、ここに来てあきらかに失速しています」
先頭を走っていた城華大付属の選手が、脇腹を押さえるようにしながら走る姿が、テレビにアップで映し出されていた。
その表情は非常にに苦しそうで、映像を見ている私達ですら顔を逸らしてしまいそうになるくらいだった。
「ここで先頭が入れ替わります。先ほど抜かれた熊本県代表鍾愛女子が再び先頭へ。おっと、監督ルームの映像が映っています。城華大付属阿部監督、非常に険しい表情をしております。なによりも石川を心配してのことでしょう。そして、城華大付属ここでさらに順位を落として、これで4位に後退。相変わらずお腹を押さえる石川。非常に……非常に苦しい表情です。残り300m、どうにかタスキを繋げて欲しい」
ここで映像が中継所へ切り替わる。
「さあ、第4中継所、城華大付属永野綾子がすでにスタンバイしております。もう中継所からも石川が見えています」
高校3年生の永野先生がアップで映っていた。
今も十分に細いが、当時の体はさらに細く締まっており、髪も今以上にショートヘアーで、耳に少しかかる程の短さだった。
その姿をみて恵那ちゃんと麻子は感動の声を上げていた。
「由香ラスト! 頑張れ! あと少し!」
永野先生が必死で声を掛けている。
その間にも次々と各校のタスキリレーが行われていく。
やはり由香里さんの言葉に間違いは無かったと言うことか。
「頑張りました石川。先頭と55秒差、9位で今、城華大付属がタスキリレー。正直、これは優勝が厳しいものになったか……」
と、走って来た石川選手に映像が切り替わる。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
そう言いながら、彼女はお腹を押さえたまま付添いの人に支えられ泣き崩れていた。
「ねぇ、これって本当に城華大付属優勝するわけ?」
麻子がそう口にするのも無理は無かった。
桂水市内駅伝程度のレベルならまだしも、これは全国大会だ。
それもアンカーで55秒差。
正直、私も結果を知らなかったら、「絶対に無理」とキッパリと言い切ってしまうだろう。
しかし、事実は小説より奇なりとはよく言ったもの。
ここから私達は奇跡とも言えるべき走りを見ることとなった。
「こちら第2移動車です。先ほど9位でタスキを貰った城華大付属の永野ですが、タスキを貰うと同時にものすごい勢いで飛び出して行きまして、すぐに2人抜いて現在7位。もうすぐ1キロを通過します。1キロは……なんと3分3秒です。かなりのハイペースで走っています永野。6位の選手にもうすぐ追いつこうと言うところです」
あまりの凄さに、私達は言葉ひとつ出せず、食い入るようにテレビを見つめていた。
その後も永野先生の快走は続く。
今までは先頭しか映していなかったテレビの映像も、右下に小さく永野先生の姿を映すようになっていた。
高校3年生の永野先生の走る姿は、まさに美しいと言う言葉そのものだった。スピードを出している分、髪の毛は大きく揺れながらなびき、肩に掛けたタスキも走るリズムに合わせて軽く上下している。
それでいて、腕振りも脚の動きも乱れることなく、まるで楽しく踊っているかのように動いる。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻