風のごとく駆け抜けて
そんなとある土曜から数日後。
高校生になって初めての定期テストが行われた。
高校生にとって絶対に避けては通れない定期テスト。
桂水高校は2学期制を取り入れているので、テストは年に4回。6月、9月、12月、2月に実施される。
テスト中は基本的に部活動は中止。
これが予想以上にストレスになった。
中学生の時はそんなふうに感じたことはなかったが、なぜか今回は走りたくてうずうずしてしまい、勉強をほったらかして家からジョグに出かける始末。
「その力を勉強に持って行ってたら、こんなことになって無かったんじゃないかな」
晴美にそのことを話したら、苦笑いしながらあっさりと言われてしまった。
ただ、私も良心がわずかに残っており、夕方親が帰宅する前には帰って来るようにしていた。
洗濯物で走っていることはすぐにばれたが、気分転換のために30分だけと、咄嗟に嘘をつき誤魔化してた。間違っても、毎日90分近く走っていたなんて口が裂けても言えない。
と言うより、言ったら部活を辞めさせられる。
それくらい今回のテストは散々な結果だった。245人中198位。完全に後ろから数えた方が早かった。
「まぁ、赤点がひとつも無かっただけ、良しとするしかないかな」
自分でそう思う分にはまだ良いが、晴美に言われてしまうと泣きたくなって来る。
ちなみに他の駅伝部員の成績だが、晴美は22位、紗耶が54位、麻子が108位とどれも私よりははるかに上。久美子先輩は243人中65位。駅伝部唯一、理数科クラスに在籍する葵先輩にいたっては、35人中3位と言う成績だ。
つまり私だけがダントツで成績が悪かった。
「ねぇ、聖香。普段練習する時って、何を思って走ってるかな?」
晴美の質問に戸惑いながらも、走ることになるとついまじめに考えてしまう。
「う〜ん。今よりも速くなりたいってことと、やっぱり都大路出場と言う目標を叶えたいってことかな」
それを聞いて晴美が「してやったり」と言う感じで、ニヤリとする。
「ずばり、聖香にたりないのはそれじゃないかな。聖香とは長い付き合いだけど、小さい頃はまだしも、中学生になった辺りから部活漬けの毎日で、聖香の口から将来の夢とか目標を聞いたこと無い気がする。部活でキツイ練習に耐えられるのも目標があるからだと思うの。それと同じように、将来こう言う職業につきたいとか、大きな目標があったら勉強もきちんと頑張れるんじゃないかな」
晴美の言うことはもっともな気がした。
言われてみれば中学で陸上部に入って、毎日走ることばかりであまり将来のこととかを考えたことがない。
「まぁ、その前に次回は駅伝部最下位脱出という目標もあるかな」
晴美は笑いながら言うが、私にとってはあまり笑えない。
今回の成績で親は何も言わなかったが、さすがにこんな成績が2回も続いてしまうと……。
ただ、将来の職業などは、考えて浮かぶものではないのも十分に分かってる。
そこは焦るわけにも行かないが、だからと言ってこのままと言うのも問題だ。
それを晴美に言うと、「まぁ、今はそう言う気持ちになっただけでも、前に進んだとするべきかな」と、返されてしまう。
私はふと、晴美に将来のことを聞いてみたが、「それを発表するにはもう少し時間と経験が必要かな」とはぐらかされてしまった。
ただ、そう言う言い方をすると言ういことは、しっかりと考えていると言うことなのだろう。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻