風のごとく駆け抜けて
4年生の時は本当に忙しかったが、なんとか無事に卒業研究を済ませることが出来た。
正直に言うと、同じ大学の博士課程にいた姉にも随分と助けてもらった。
そして高校理科の教員免許も無事に習得。
山口県の教員採用試験にも一発で合格。
私は夢だった高校教員となったのだ。
しかも、一番最初の赴任地が桂水高校と言う素晴らしき偶然。
もちろん、永野先生もまだ桂水高校に在籍だった。
最初の年は、私と永野先生の2名体制で駅伝部を指導した。と、言うものの、永野先生は基本的に見てるだけ。
生徒へのアドバイス、練習メニューの作成、試合の申し込み、メンバー選出等、すべて私の仕事だった。
私が赴任して一年目は県予選で城華大付属に敗れた。
まぁ、向こうには恵那ちゃんがおり、走力が圧倒的に違った。
私が卒業した後、二年間。
つまりは梓が3年生の時までは桂水高校が都大路へ。
その次の年に城華大付属に恵那ちゃんが入ってからは3年連続で城華大付属が都大路に行っている。
そしてその年の県駅伝が終わった後、私は永野先生に呼び出された。
「お疲れ澤野先生」
「いや、だから学校外で先生は辞めてくださいって、いつも言ってるじゃないですか」
もう未成年では無いから良いだろうと、永野先生は私を居酒屋へと連れて来た。
「で、何ですか? わざわざ呼び出しての重要な話って?」
その時の私の一言に、永野先生は少しだけ気まずそうにしていた。
「まぁ、隠してもしょうがないしな……。私、3月いっぱいで教員辞めるから」
「はい? え? どう言うことですか?」
当時の私は相当驚いてしまい、一瞬頭の中が真っ白になってしまった。
「実は城華大付属の阿部監督が今年で70歳になられるし、もう駅伝部の監督を引退されるんだ。それで、後継者としてどうしても私にとお呼びがかかってな。なんでも初出場で初優勝したあの都大路が高評価だったたんだと。私から言わせてもらうと、私の指導がどうこうじゃなくて、お前らがきちんと走った結果だと思うんだがな。その話が来たのが今年の1月。最初は断ったんだがな……。まぁ、私も阿部監督の教え子で城華大付属の卒業生だし……。それに、澤野が偶然ながら桂水に赴任して来て、お前の指導を見てたら、ああ、これなら大丈夫かって思えるようになってな」
そこまで話すと、永野先生はビールを飲んで一呼吸置く。
「澤野。桂水のことよろしく。私は来年から城華大付属高校駅伝部の監督になるから。来年からはライバル同士だな」
あの時の永野先生の一言に、なぜだか私は大泣きをしてしまった。
その日から10年。 対戦成績は城華大付属が6回。桂水が4回。それぞれ都大路に県代表として、都大路に出場している。
展望台へと上がって来ると、眼下に見える景色よりも、はるか彼方まで続く青空の方が綺麗に見える気がした。
雲一つない快晴の空は、こうして大人になった今でも、高校生の時と何一つ変わらず、透き通るほどに綺麗な気がする。
下の方を見ると、みんなもこっちに歩いて来ているのが見えた。
私は展望台のイスに腰掛け、はるか遠くまで続く青空を眺めながら、みんなが来るのを待つことにした。
あの頃と変わらないこの青空は、きっとこれから先何年経とうとも、変わること無く、綺麗なんだろうなと思いながら。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻