小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

風のごとく駆け抜けて

INDEX|239ページ/283ページ|

次のページ前のページ
 

「いえ、待ってください。確かにどこかに属して走りたいと最近思ってるのも確かですが。何より私は色々あって一度城華大を蹴っています。それにもう私は20歳ですよ? 第一、大学に入る学力もお金も無いです」

宮本さんは突然のことにあたふたしながら、早口気味に必死で説明していた。

「了解。つまりなんの問題もないと言うことね。じゃぁどうしようか。とり合えず、あなたの家を教えてくれる? ご両親にもきちんと話をしたいから」

「いや、問題だらけでしょう!」
牧村さんの返答に、初対面ながらも宮本さんがつっこむ。

「だから、問題ないのよ」
牧村さんは、説明するのが面倒くさいと言った感じで話を続ける。

「うちの部は一般入試入学者の入部も受け付けてるから。現に2年前には一般入試で入った子が4年生になって最後の最後でレギュラーを勝ち取ったこともあったし。それにあなたに対して使おうとしているS級推薦は、試験は面接のみ。学費も部活を続けるなら4年間学校が全額出すわ。それと城華大に入る時は色々あったみたいだけど、今はもう一度競技として走りたいと思ってるんでしょ? 私だって走りを見たらそれくらいは分かる。と言うわけで、なんの問題も無いでしょ。質問は?」

牧村さんはじっと宮本さんを見る。

僅かな沈黙があったのち、
「特にないです。来年からよろしくお願いします」
と宮本さんは答えて頭を下げる。

結局この後、宮本さんと牧村さんは2人で何か話し合い、帰って行った。ど
うも、宮本さんの実家に行くようだ。

「こんな偶然ってあるんだ。なにがどうなってるのかさっぱり。てか、良いな推薦……」
麻子のは目の前で起きた出来事を、偶然の結果と片付ける。
でもそれは多分間違いだ。
きっと永野先生が裏で色々動いていたに違いない。

私の予測が当たっていたと分かったのは、晩御飯を食べ終わって、トイレに行った帰りだった。

廊下の隅で永野先生が電話をしていた。

「そう言うわけで、宮本は無事に明彩大に入学出来そうです」
「え? いえいえ。とんでもないです。阿部監督にはいつもお世話になっていますから。これくらいのことは。でも本当に良かったんですか? 牧村さんの所じゃなくても、水上舞衣子のいる実業団も紹介出来たんですが」

どうやら電話の相手は、城華大付属の阿部監督のようだ。

「ああ、そんなもんなんですか? てか監督は生徒を大学に進学させるの好きですね。私の時もそうだったし。もちろん感謝はしていますよ」
「はいそうですね。それではまた。失礼します」

電話越しで相手が見えないのに、永野先生は何度もお辞儀をしながら電話を切っていた。

電話が終わり、振り返った永野先生と目が合う。

「ビックリした。澤野か」
「やっぱり、今日のこと偶然じゃなかったんですね。まあ、2人のことを知ってる私からしたら偶然は無いなって感じでしたけど」
「まぁな。阿部監督に頼まれてたんだよ。宮本をどこかに紹介できないかって。阿部監督も宮本のことは随分と心配してたみたいだしな。これでも色々迷ったんだぞ。他にも実業団や大学に知り合いもいるし。まあ、おまえ達が路頭に迷わないようにするのも私の務めだしな。幸い、今いる部員は澤野以外は路頭に迷いそうにないがな。学力的に見て」

「いや、私これでも頑張ってるんですけど」
「あはは。分かってるよ。本当に澤野の学力がダメだったら、こんな冗談は言えないから。さて部屋に戻るかな。明日はついに合宿最終日だ。由香里が楽しみに待ってるって言ってたぞ」
それだけ言うと永野先生は部屋に戻って行った。

1人だけ廊下に残される。
窓から見える夕方の景色は、随分と寂しそうに見えた。

ふと、気付くとこの合宿所から見る景色はこれが最後だと気付く。

後八ヶ月もすれば私も卒業だ。
来年はどこで何をしているのだろうか。

誰もいない廊下でそんなことを考えると、涙が出そうになってしまった。
私も急いでみんなのいる宿泊部屋に戻ることにした。