風のごとく駆け抜けて
夏合宿前の静けさ
進路希望調査を出した週末。
気が付けばカレンダーは7月になっていた。
今日は晴美と、市内のショッピングモールへ買い物にやって来た。
「でね、麻子ったら12月まで部活をやることが予定に入ってるって言ってたけど、本音は、それで陸上推薦が来たら勉強をしなくて済むからって意味だったらしいよ」
「そう言えば走る方で推薦こないかなって前に言ってたかな」
晴美と喋りながら、ショッピングセンターの中を色々と見て歩く。
晴美はスカートを、私はサンダルを買う。
「ねぇ、あれ紗耶じゃないかな」
晴美が指差す先には見慣れた人物が1人で立っていた。
ショートカットに左側だけ小さく作ったお団子。
どこからどう見ても紗耶だ。
私達はそろって紗耶に声を掛けに行く。
「やっほー」
「何をしてるのかな。紗耶」
私達の声に紗耶はすぐに振り返り、私達の顔を見るとすぐに笑顔になる。
「えっと……はるちゃんに、せいちゃん?」
「いや、なんで疑問形なのよ」
紗耶の態度に私は思わず笑ってしまうが、晴美は笑顔を引きつらせていた。
「もしかして亜耶かな」
「すごい。はるちゃん分かったんだ」
紗耶かと思っていたらなんと双子の姉、亜耶だった。
「なんで亜耶がこんな所にいるのよ。しかも紗耶と同じような髪型をして。てか高校生になってから、毎年一回会ってるわよね私達。まるで風物詩ね」
私はため息交じりに亜耶を見る。
自分で言っておいてなんだが、本当に偶然亜耶に出会うのは定期イベントのような感じになっていた。
「いや、わたしだって桂水市に買い物に来ることだってあるのよ。もうすぐ母親の誕生日だし、プレゼントを買いに来たの。あえて別々の物を選ぼうってことになってるから紗耶は別の所で買い物。多分、桜庭市にあるデパートに行ってると思う。あ、そうだ。ねぇ、はるちゃんとせいちゃん、ちょっと時間ある? ファミレスでお茶でもしない」
亜耶に突然誘われ、私と晴美は顔を見合わせる。
私達も特に予定は無かったので、亜耶の提案に乗ることにした。
3人で駅前近くにあるファミレスに入る。
ここは一年生の時に、部員全員で昼御飯を食べに来たところだ。
そう言えば、あの時は葵先輩の大食いを初めて見て驚いたものだ。
3人ともそれぞれ適当にデザート系を頼み、世間話を始める。
学年的なものもあり、どうしても受験の話になってしまう。
「え? 亜耶は留学する予定なの?」
「うん。そのために高校も英語科を選んだんだよ。卒業して半年間、英会話をしっかりと勉強して9月からイギリスに行くつもりだよ」
海外に留学。なんとも凄い話だと思った。
永野先生が聞いたら、卒倒しそうな話だ。
主に移動手段について。
ウエイトレスが運んで来てたデザートを食べながら、お互いの学校や普段の生活について話が進む。
と、亜耶が手を止める。
「そう言えば、2人に真面目に聞きたいことがあったんだ」
急に真面目な声になった亜耶を前に、私と晴美は顔を見合わせる。
「いきなりどうしたのかな」
晴美が聞いても亜耶はすぐには喋り出さず、少しだけ私達のテーブルを沈黙が支配する。
「紗耶のことなんだけどね。部活どうなの? 最近なにか変ったことあった?」
突然のことに私は頭が回らなかった。
紗耶に変わったこと……。
いや、特に変わったことは無かったはずだが。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻