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風のごとく駆け抜けて

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初出場!日本選手権!


県高校総体も無事に終わり数日が経ち、日本選手権を直前に控えた私は、衝撃の事実を告げられらる。

「え? 壮行式ですか?」
「そう。なんでも桂水高校創立以来、初の全国大会出場らしくてな。校長が張り切ってたぞ。まぁ、さっき決まったばっかりだがな」

「で、いつやるんですか?」

「澤野。お前日本選手権への出発はいつだ?」
「明後日の早朝ですね」

「と、言うことは明日しかないよな。明日1限目が緊急全校集会になったから。まぁ、澤野の壮行式のためだけにある集会だがな。そう言うわけで、あいさつ文を考えとけよ。詳しいことは明日の朝、担任に聞いてくれ」

さらりと永野先生はとんでもないことを言う。
明日までにあいさつ文を考えろって……。

と言うより、全校生徒の前であいさつか……。
明日のことを考えると、今の時点で緊張してしまう。

翌日、いつもの待ち合わせ場所に行った時点で「なんだかガチガチに緊張してるのが見て分かるかな」と晴美に笑われてしまう。

学校に向かいながら晴美と話していても、心の片隅では常に壮行式のことが駆け巡っていた。

そうなのだ。
あいさつ文を考えている間は、それに集中していたので気にならなかったが、壇上に上がり全校生徒の前で喋らなければならないと言う事実が、私をとんでもなく緊張させる。

陸上のスタートも緊張するが、それとこれとは緊張の種類が違う気がした。

そうやって考えると校長先生などはすごいと思う。

と、自分のなかでパズルのピースがハマった音がした。

将来教師になると、こう言う機会も度々あるのかもしれない。
なるほど。今回のことは良い練習だ。
それに気付くと、不思議と緊張もほぐれて来た。

学校に着く頃にはわりと自然体となり、
「なんで聖香は今の方が顔色が良いのかな。普通、本番が近付くとどんどん緊張するはずなのに」
と不思議がられてしまった。

「それでは、日本陸上競技選手権大会の女子3000m障害に出場されます、3年3組澤野聖香さんの入場です」

アナウンスされ、私は体育館に入る。
それと同時に吹奏楽部が演奏を始め全校生徒の拍手で迎えられる。

正直、やりすぎだろうと思った。
私1人のためにここまでしなくても良いのに。

壇上に上がると、私の経歴について簡単な説明があり、校長先生から激励の言葉を貰う。その後、私があいさつをして終了。

と私は事前に聞いていた。
だが実際はもうひとつ残っていた。

「それでは最後に、女子駅伝部顧問永野綾子先生より一言お願いします」
言われて永野先生が壇上に上がて来る。
今日は珍しくロングスカートを履いていた。

壇上の上で、しかも面と向かって永野先生と対面するのはなんだか恥ずかしかった。

どうやらそれは永野先生も同じだったらしく、気まずそうな顔をしている。

きっと永野先生が私に黙っていたのは、事前に知られるのが嫌だったのだろう。

それでも永野先生はマイクを持つと、私の顔を見て喋り出す。

「澤野、まずは日本選手権出場おめでとう。こんな大舞台で走れる機会なんて、一生のうちにそう何度もあるもんじゃないと思う。せっかくの機会だから全力で楽しんで来い。そして、またこの場で良い報告をしてくれることを楽しみに待ってるから。それと、私の夢をひとつ叶えてくれてありがとう。以上」

恥ずかしいながらも永野先生の顔を見ると、優しい笑顔で微笑んでくる。

その笑顔を見ると、この人が駅伝部の顧問で本当によかったと心の底から思えてきた。