風のごとく駆け抜けて
藍子が先頭に立ち、もうすぐラスト1周と言うところでさらにレースが動いた。
ずっと6、7番手辺りで待機していた清水千鶴が「すーっ」と、まるで幽霊が通りすぎるかのような静かな走りで先頭へ出る。
清水千鶴が先頭へと出た瞬間、ラスト1周を告げる鐘の音が鳴る。
その音を聞くと同時に、清水千鶴の走りが変わった。
昨日の予選、この決勝と楽な走りをしていたが、それとは逆に力強く地面を蹴る走りになる。
その後の光景はちょっとだけ信じれれなかった。
あの藍子がまったく勝負をさせて貰えず、あっと言う間に離されてしまったのだ。
決して藍子が遅い訳ではない。
現に、藍子とその後ろで3位争いをしている麻子、貴島由香との差は開いて来ている。
競技場内の観客は、その清水千鶴の走りを見て歓声に溢れていた。
ふと、昨年の県高校選手権3000m決勝を思い出しす。あ
の時、雨宮桂が同じようにラスト1周になった瞬間にペースを切り替えていた。
ただ、今回は1500mのラストスパートと言うこともあり、あの時以上のスピードだ。
清水千鶴はラスト1周を56秒と言うとんでも無い記録で走り、圧勝をしてみせた。
「あいつ、短距離選手としても十分通用するくらいのスピードを持ってるな。ああ言う選手と戦う場合、昨年澤野がしたように最初から全力で行くに限るな。とにかく相手の体力を早めに奪って、差を広げておかないとラスト勝負では勝ち目がない」
永野先生の言うことはもっともだと思った。
正直400m勝負なら、私は清水千鶴に勝てないと思う。
清水千鶴に離されはしたものの藍子はそのまま2位でゴールをした。
「麻子、頑張れ!」
「麻子さんファイトです」
私達は3位争いをしている麻子を必死で応援する。
ラスト1周手前で一度貴島由香がリードを奪ったものの、麻子はそれに喰らい付き、必死で競り合いをしていた。
しかし、ラスト勝負では貴島由香の方が上なのか。
それとも昨日のマイルリレーで脚を使ってしまったのか。
麻子は付いて行くのが精一杯の状況だ。
結局ラスト100mになった所で先に麻子が力尽き、貴島由香が3位、麻子が4位でゴールする。
麻子がゴールすると同時に、私達は朋恵の応援を始める。
先頭はラスト1周前に激しく入れ替わったが、最下位は最初からまったく変わらず、ずっと朋恵だった。
「でも朋恵ちゃん、このタイムさっきの予選より速いかな」
晴美がストップウォッチを見ながら驚きの声を出す。
予選の走りはかなり力を出し切ったかに見えたが、それよりも速いタイムで走るあたり、ひょっとして朋恵がここまで強くなったのは、持久力が関係しているのでは? と私は考えていた。
1500mを走った2人が帰って来て、無事に桂水高校駅伝部としての県高校総体は終わる。
今回の結果、紘子とアリス、それに麻子が中国地区総体へと出場することになった。
きちんと走り出して約五ヶ月あまりで中国地区総体に出場するアリス。
入部した時からみんなが言っていたがやはりとんでもない才能を持っているようだ。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻