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風のごとく駆け抜けて

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修学旅行から帰って来たのが土曜日の夜。
日曜を挟み、月曜日の部活でみんなにお土産を配ることになっていた。

私は紘子用に買ったお土産を持って、部室へと行く。
部室に行くと、私以外の2年生は全員来ていた。

「そう言えば、麻子。永野先生に頼まれた、いろはにぽてとっていくらだった? 私お金払ってなかった」
私が麻子に聞くと、麻子は不思議そうな顔をする。

「いや、あれは紗耶の担当でしょ?」
「えぇ? わたしは、はるちゃんが買うんだと思ってたんだよぉ」
「いや、聖香が買うものとばかり思ってたかな」

ここで2年生4人、全員が黙りこむ。
あきらかに修羅場を迎えそうな予感がしていた。

「あ、そうだ。みんなに渡すお土産をばらして混ぜて、五等分するって言うのは?」

「ダメよ麻子。永野先生はわざわざ、いろはにぽてとって指定して来てるし」

「そもそも私が朋恵に買ったお土産は、食べ物じゃなくて、くまもんのぬいぐるみかな」

「いやぁ。だからと言って殺されるわけじゃないんだよぉ」

「紗耶、けいすい祭の時に、なんで私があんな恥ずかしい恰好をしたか分かってるわよね?」

私が言うと、麻子と晴美も「この世が今から終了します」と言われたような絶望的な顔になる。

「おう。みんなお疲れ。どうだった? 修学旅行は楽しかったか?」
私はこの時、恐怖と言うのは突然やって来るからこそ恐怖なのだと感じた。

「どうした? みんな? そんなに怯えた顔をして。所で、例のお土産買って来てくたのか」

お土産を楽しみにしていたのだろう。
優しく微笑んでくる永野先生。

しかし、私にはその微笑みが恐怖にしか感じられない。

隠してもすぐにばれると感じたのだろう。
麻子が事情を説明する。

「あらら。それは仕方ないわね。あ、私、練習メニューを持って来るのを忘れちゃったから取って来るわね」
永野先生はそれだけ言うと部室から出て行く。

「何事もなくてよかったかな」
「寿命が縮むかと思ったよぉ」
安堵の表情をする、晴美と紗耶。

が、それは多いに間違いなのだ。

「何バカなことを言ってるのよ。今のうちに逃げるわよ」
麻子が急いで通学カバンを片付け始める。

「今の永野先生の口調聞いた? あれ絶対に怒ってるって。あたし達みんな海に沈められるわよ」
麻子の表情には全く余裕が無い。
いや、それだったら私はとっくに海の底なのだが。

「あら、おかえり。どうだった修学旅行」
間が良いのか悪いのか。葵先輩が部室にやって来る。

「あたし達、今からダッシュで帰ります。あ、お土産は机の上に置いておきました」
本気で逃げようとする麻子が、部室の入り口を見て、カバンを落とす。

職員室に戻ったはずの永野先生が戻って来たのだ。

「あらあら。どうしたの湯川? 言い忘れたのだけど、2年生は今から1000mを20本やって30キロジョグだから、家には遅くなるって連絡しておいてね」

ダメだ。永野先生は完全に怒ってる。もうあきらめるしかないのか、と思ったその時だった。

「なにをバカなことを言ってるのよ。綾子は」
私達2年生4人にとって、その声は天使の歌声以上に素晴らしいものに聞こえた。

大会以外は月に2回程度しか顔を出さない由香里さんだが、お土産があると連絡を入れておいたので顔を出してくれたのだ。

「で、何の騒ぎなのこれは?」
「聞いてよ由香里。私のお土産だけ買い忘れたんだって」
「綾子? まさかそれが理由で生徒にとんでもないメニューをやらそうとしたわけ?」

いつもより低い声の由香里さんに尻ごみしたのか、永野先生は苦笑いをし始める。

「まったく……。あきれてものも言えないわ。私のお土産半分分けてあげるから。それで我慢しなさい」
由香里さんの一言に今度は紗耶が気まずそうな顔をする。
なんと紗耶が由香里さんに買ったのは、くまモンのマグカップだったのだ。

最終的には、食べ物がお土産となっていた葵先輩と紘子の分を3分の1ずつ永野先生に渡すことで決着はついた。