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風のごとく駆け抜けて

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新幹線に乗り込み、指定席の番号を確認する。
普段は自由席なので、ちょっと新鮮味を感じた。

座席を回転させ、通路側に私と麻子、窓側に晴美と紗耶が向かい合って座る。

私達の席は入口からすぐの二つとなっていた。

雑談をしているとあっと言う間に博多へ到着する。
到着とほぼ同時に、眼の前にある車両の入り口が開く。

と、1〜2歳くらいだろうか。
下は長ズボンの上からスカートを履き、上にはフードの付いた茶色のオーバーを着た女の子が入って来る。

よく見ると、髪は黄色のゴムで綺麗に止められていた。

私と目が合うと、その子は真っ直ぐに私の所へと走って来る。

「ママ! しー、おぎぎりほしー」
突然の子供の発言に、みんなの雑談が止まる。

「聖香? あなたどう言うこと?」
「今、間違いなくこの子、聖香を見てママって言ったかな」
「せいちゃんに隠し子がいたんだよぉ!」
いやいや、そんなことがあってたまるもんですか。

「えっと、お名前は?」
「しーな」
私の問いかけに子供は元気よく答える。

「ママはどこかな?」
「ここ」
私の太ももをバシバシ叩きながらその子供がはしゃぐ。

「聖香?」
「これはアウトかな」
「せいちゃんの子供かぁ」
いやいや、待って欲しい。
どう考えても、おかしいだろう。

私が考える間も「ママ! ママ!」と言って子供が私を叩く。

と、今子供が入って来たドアが開く。

「すいません。うちの椎菜が迷惑を」
入って来た女性を見て、そこにいた誰もが言葉を失う。
私達駅伝部も、今の今まで騒いでいた子供も、謝って来た女性までもが。

「せ……聖香が2人?」
「ママ?」
「あら。これは……」
この子供が私のことをママと言う理由が分かった気がした。

母親らしき女性の顔が……。
自分で言うのもなんだが、まるで朝の洗顔で鏡を見るかのような気分だった。

「えっと、聖香の生き別れのお姉さん?」
「ごめん。本当の姉よりも似てる気がする」
「いえ、あたしも妹よりもあなたの方が似てる。って、椎菜。どうしたの?」
私と女性の間に挟まれた子供が、息をするのも忘れてるくらいにじっと動かない。

「あ、その子。聖香をあなたと間違えたみたいで」
どこから説明していいのか、麻子が戸惑いながらも女性に説明する。

「そうなんですか。まぁ、椎菜が間違うのも無理はないかも。えっと、あたしは倉安尚子。こっちは娘の椎菜。今2歳4ヶ月ね。あ、ちなみにあたしは28歳よ」
「あ、私は澤野聖香と言います。今、高校2年生で。修学旅行の帰りなんです」
自己紹介をすると、倉安さんがじっとこっちを見る。

「あなた達、山口県民だったりする?」
「はい。桂水市出身です」
「やっぱり? その制服、桂水高校だよね。友達が通ってたから、なんとなく見覚えがあったのよね」
その後の倉安さんの説明によると、倉安さんは桂水市の西にある綿瀬市出身。3日前から旦那さんの単身赴任先である博多に行っており、今日はその帰りなのだと言う。

新幹線に乗った直後、ゴミを捨てようとしたら椎菜ちゃんが走って逃げてしまったらしい。

「それにしてもすごいかな。瓜二つ」
「本当にあたしも自分で自分を見てるようだもの」
晴美と倉安さんがつぶやくと、紗耶と麻子がお互いの顔を見る。

「倉安さん、顔は聖香にそっくりですけど、声は晴美に似てる気がします」
麻子の説明に紗耶も頷く。

「そうかな。あんまりよく分からないかな」
「自分の声って、人と自分で聞こえ方が違うって言うしね」
言われて注意して聞くと、確かにそっくりだ。
意識して聞くと違いが分かるのだが、なにか別のことに集中していたら間違いそうだ。

「そうだ。えっと……聖香ちゃん? だっけ名前。一緒に写メ撮って良い? 旦那に送りたいから」
倉安さんの提案で2人で一緒に写真を撮る。「あなたにも送ってあげる」と言われ、倉安さんと携帯番号を交換する。

その後椎菜ちゃんを連れ、倉安さんは別の車両に移って言ったが、どうも降りる駅が同じ桂水駅だったらしく、駅の改札口でまた出会った。

「じゃぁね、椎菜ちゃん」
4人全員で手を振ると、椎菜ちゃんも元気よく手を振ってくれた。