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風のごとく駆け抜けて

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「てか、あなた実業団とか陸上が強い大学には行かないの?」
「うーん……。多分行かないわね。行きたい大学に落ちたら考えるかも知れないけど」
「つまり行くってことね」
一瞬、麻子の言う意味が分からなかったが、分かると同時に私は麻子の顔にお湯をかける。

「てことはぁ、せいちゃんはもう来年、文系にするか理系にするか決めてるのぉ?」
「うん。理系にする」
私が即答すると質問をした紗耶が驚いていた。

「私は文系かな。一応私もやりたいことがあって、受ける大学は3つくらい候補があるかな」
「え、はるちゃんも? うう、わたしは文系に行こうとは思ってるし、大学にも進学するつもりだけど、どこに行きたいとかはまだ具体的に決まってないんだよぉ。あさちゃんは?」

紗耶は私と晴美が目標を持っていたことに少しだけ焦りを感じたのか、まだ話が出ていない麻子に話しを振る。

「あたしは体育大学に進学するつもり。将来的にはスポーツジムのインストラクターとかいいなって。自分が体を動かせる仕事に付きたい」
「麻子が具体的に将来の夢を持ってるのが、一番驚きかな」
それを聞いた麻子は、さっき私が麻子にしたように、晴美の顔にお湯をかける。

「でも当然とは言え、そう考えると高校を卒業したら私達バラバラだね」
「とは言っても実家は桂水市周辺なんだし、携帯だってあるし。連絡は小まめに取れるんじゃないかな。それにこうやって年に一回くらい集まって旅行に行くのもいいかな」
晴美が提案すると、私も麻子も紗耶も顔を見合って何度も頷く。

お風呂から上がり、布団の上でごろごろしながら雑談をして、夜遅くに就寝。

でも、私の携帯は朝5時にアラームが鳴った。
修学旅行中にせめてジョグをしようと、走る道具を持って来ていたのだ。

アラームを止めて起きると、なぜか紗耶と麻子も起きていた。

「まさか、あなた達までシューズを持って来てるとは思わなかった」
「いやぁ、せいちゃんとあさちゃんは寝てて良いと思うんだよぉ? わたしはもっと走力を付けないといけないから道具を持って来たんだけどぉ」

あまり突っ込んで聞けなかったが、もしかして紗耶は県駅伝のことを気にしているのだろうか。

あの時の紗耶は本当に良い走りをしていたと思うのだが。

結局、3人で走りに行こうと、晴美を起こさないようにそっと部屋を出てジョグに出かける。

部屋に帰って来ると、晴美がふて腐れていた。

「本当に信じられないかな。起きたら誰もいないってあり得ない。麻子をどうこう言う前に、聖香も紗耶もランニングバカかな」

口をとがらせる晴美に「それは多分私達3人には褒め言葉だね」と言ったら、枕が飛んできた。

修学旅行2日目。今日は黒川から天草までバスで移動する。

天草ではイルカウォッチングの予定だ。
イルカウォッチングの後は、天草四郎や小泉八雲に関する建物を見て市内に移動となっている。

私以外の生徒、さらには先生までもがこのイルカウォッチングを楽しみにしていた。

でも、私は全く違った。
出来れば、昨日のカピパラのところに私だけ降ろして欲しいくらいだ。

ちなみに明日は午前中に全員で熊本城へ。
午後からは、修学旅行の名目上、グループごとに事前に決めた場所を訪れ、後日レポート提出。最終日は朝から夕方まで自由時間となっている。

この最終日にえいりんと会う予定だ。

バスは走り続け、ついに天草が見えてくる。
やまなみハイウェイの景色も素敵だったが、海は海でまた違った素晴らしさがあった。

それにこの辺りは、海に小さな島がいくつも浮かんでいるのが、とっても魅力的に思えた。

バスがイルカウォッチングの場所へ着くと、晴美も紗耶もすでにハイテンション。よく見ると、麻子ですらちょっと浮き足立っている。

施設の人から説明を受け、ライフジャケットを装着し、船に乗り込む。

そう、野生のイルカを見に行くのだ。
けして水族館のようにイルカが来てくれるわけではない。

私のテンションが低い理由はそのためだ。

泳げないのに、舟で海に繰り出すとはこれいかに。
しかも私の予想よりもはるかに船が小さかった。

「もっとこう、豪華客船的なものかと」
「それだとイルカが近くで見えないかな。あ! 聖香、もしかして海が怖いのかな」
ここでようやく晴美が事態を理解してくれたようだ。

「でも、別に聖香自身が泳ぐわけじゃないし、平気かな。それに、最悪船がひっくり返っても、ライフジャケットを着てるから浮くかな。あ、イルカが助けてくれるかも」

前言撤回。まったく理解していなかった。

泳げない私にとっては、小型の船で沖に出るのは恐怖以外のなにものでもないのだ。

そんな私の事情とは関係なく船は出航する。
海に出て15分もしないうちに、イルカが姿を現した。

「あさちゃん、ほら向こうにもいるよ」
「すごい。こんなに近くにイルカが」
「予想以上にたくさんいるかな」
3人とも、身を乗り出しそうな勢いではしゃいでいる。

そんな姿を、私は船の中央辺りから見ていた。
泳げない私にとって、船の端っこはすごく恐怖なのだ。

と、私の視界の中心で一匹のイルカが海から跳ねる。

「わぁ。見た? 今イルカが跳ねたよ。すごい!」
感動のあまり声を上げると、晴美が笑ていた。

「ほら、せいちゃん。怖くないから来なよぉ。イルカ、いっぱい見れるよぉ」
紗耶が手を伸ばして来るので、私も意を決して船の縁へと移動する。

紗耶の言った通り、ここから見ると本当にたくさんのイルカが近くにいる。

それを見て思わず笑顔になるが、その裏で心臓は、ものすごい速さで脈を打っていたのは内緒にしておこう。

海が近いせいか、お昼御飯に食べた魚介類は今までに味わった事が無いくらいに美味しく、ここに来て初めて海も悪くないかなと感じた。

その後は予定通り色々な建物を見て回り、市内へ移動する。