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風のごとく駆け抜けて

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次の日の早朝、目を覚ますとまだ辺りは暗かった。

携帯で時刻を確認すると5時半。昨年もこの時間に眼が覚めた気がするのだが。

2度寝する気にもなれず、みんなを起こさないようにそっと部屋を出て散歩に出かける。

空を見上げるといくつもの星が瞬いていた。
きっと今日は快晴になるのだろう。

今日やるべきことははっきりと分かっている。

自分でトップに立ち、少しでも差を広げる。
それだけだ。

城華大付属2区の工藤知恵とはこれが初対戦。
しかし特に問題はない。

走力的にみても絶対に私の方が上だ。
もちろん、それを分かっていて永野先生は私を2区にしたのだろうが。

試しに50m程度軽く走ってみる。
それだけで脚が随分と軽いことが分かった。
大丈夫、今日はやれそうだ。

「せいちゃん。待ってぇ」
呼ばれて振り返ると、紗耶がジョグでこっちに向かって来ていた。

「せいちゃんが部屋を出て行ったから、わたしも出て来たんだよぉ」
私の横に並ぶと紗耶も一緒に歩き出す。

そう言えば、県総体の時もこうして2人で散歩に出かけた。
あの時は今日とは逆で、紗耶が出かける物音で私が目を覚ましたのだが。

「今年こそ都大路行こうねぇ」
まるで独り言のように紗耶がぽつりとつぶやく。
「行こうね」と私も静かに返す。

「正直、わたしちょっとだけ不安なんだよぉ。ほら、4区だけ城華大付属のメンバーがまったく知らない人でしょ。実はめちゃくちゃ速い人だったらどうしようって昨日から考えてて。だからあまり寝られなかったんだよぉ。わたしが足を引っ張ったらみんなに悪いなって。せいちゃんが散歩に出かけたのにすぐ気付いたのもそれが理由なんだよねぇ」

いつもは部のムードメーカと言えるくらいに明るい紗耶。
だが、今の声はかなり沈んだ声だった。

そう言うポジションのせいか、それともそうしないからムードメーカーなのか、紗耶は自分の悩みごとや弱音などをあまり部活では喋らなかった。

そんな紗耶から不安の声を聞くのは随分と変な感じたが、やはり紗耶でも悩みや不安は人並にあるんだなと思った。

「大丈夫だよ紗耶。昨日葵先輩も言った通り、あとは私達の走りをするだけだよ。それに駅伝は何が起こるか分からない。もしかしたら私が大ブレーキをするかもしれないよ」
「あはは。せいちゃんに慰めて貰うなんて変な感じなんだよぉ。てか、せいちゃんがブレーキをするってのは現実味がない話なんだよぉ」
私の言葉を聞いて紗耶はいつもの明るさを取り戻していた。

まぁ、私に慰めらられるのが変な感じなのは、根本的に紗耶が普段悩みを言わないせいなのだが、それは黙っておいた。

紗耶は現実味がないと言っていたが、実際私もブレーキを起こしたことがある。
あれは中学1年生の県駅伝だった。

1500m1年の部で県4位だった私は駅伝でエース区間を走ることになった。

1年でエース区間と言うのは、自分が思った以上にプレッシャーだったようで、10位でタスキを貰い、途中7位まで順位を上げたものの後半大失速。

結局、次の区間に渡す時には12位にまで順位を下げてしまった。

今となっては懐かしい思い出話だが、当時は相当に落ち込み、部活の先輩や晴美にずいぶんと慰められたものだ。

2人で旅館に帰って来ると、みんなもすでに起きていた。

いや、よく見ると紘子だけまだ寝ている。
1区を走る紘子が一番早く起きておかないと体が動かなくなるだろうに……。
紘子レベルになるとそう言ったことはあまり関係ないのだろうか。

そんな紘子も朝食時間直前にはきちんと起き、全員で朝食を取り、予定通りの時間に競技場へと向かう。

駅伝もトラックレースも同じ陸上競技場を使っているのに、不思議と駅伝の時だけは陸上競技場の雰囲気が違うように感じる。

なんと言うか、トラックレースの時に比べ、静かにどっしりと構えて見える。

そのせいか、周りに集まる各学校の選手やのぼりが、余計にでも華やかに見えてしまう。

「それでは2区以降の選手及び付き添いの方、バスの準備が出来ましたので乗車をお願いします」
役員の声が拡声器を通して響き渡る。

「さぁ、いよいよね。次に全員がそろうのはゴール後よ。もちろん今年は笑顔で集まりましょう」
葵先輩はそれだけ言って昨年同様に右手を出す。
昨年は少しだけ恥ずかしかったが、今年はそんな気持ちは一切なかった。

私達は次々に手を重ねて行く。
全員が手を重ね、私達が円周上に集まった所で葵先輩が大きく息を吸い込む。

「絶対に最後まであきらめない。今まで練習して来たことをすべて出し切ろう。行くわよ都大路! 桂水高校女子駅伝部! ファイト!」
「「「「おー!!」」」

昨年もそうだったが、こうするとやる気が湧いてくる来るのだから不思議なものだ。