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風のごとく駆け抜けて

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昨年以上に盛り上げよう!文化祭開幕!


今年も昨年同様、生徒会長のあいさつで文化祭が開幕する。
あまり気にしてなかったが、今年の生徒会長は男子だった。

「さぁ、みんな準備はいいわね」
葵先輩の掛け声に私以外の全員が頷く。

「あの……やっぱりこの服で呼び込みをやらないとダメですか」
抵抗は出来ないと悟り、一応セパレートのメイド服を着ているものの、恥ずかしさでいっぱいだ。

実際に着てみると、お腹周りが丸見えなのはもちろんのこと、胸やお尻などの部分も見えるか見えないかの、かなりギリギリのラインだった。

「もちろん。インパクトは大事だからね」
「大丈夫ですし。聖香さん似合ってますし」
屈託のない笑顔を見せる葵先輩と、対照的に顔を赤らめながら恥ずかしそうに言う紘子。

麻子と紗耶にいたっては携帯で私の姿を写真に収めていた。

「まぁ、澤野がどうしても嫌というなら、私は無理に着る必要はないと思うぞ」
永野先生の言葉は、今の私にとって天使の歌声のごとく素晴らしいものに思えた。

「本当ですか? 永野先生!」
「ああ。その服を全部脱いで全裸で宣伝してくると良い。そうすればメイド服を着ている恥ずかしさは無いだろう?」

忘れていた。
この服を最終的に許可したのは永野先生だ。

それも私がお土産を買い忘れたのが発端だ。
まさか、ここまでそれが影響をおよぼすとは思わなかった。

「それにしても、普段の練習ではあんなに強気の走りをするのに、こう言う時の聖香は別人ね」
「いえ、葵先輩……誰だってこんな格好をしてたら強気にはなれませんよ。露出狂じゃないんですから」

「てかぁ、せいちゃん。そろそろ呼び込みに行ってくれないとぉ。いつまでたっても店が開けられないんだよぉ」
紗耶の一言が私にとどめを刺す。

もう何があっても逃げれないと悟った私は、しぶしぶながら、この恥ずかしい恰好で呼び込みに回ることにした。

「みなさん、こんにちは。こちらは駅伝部です! 管理棟2階でメイド喫茶をおこなっております。ぜひ一度来てみてください! お願いします」

プラカードを持って、宣伝をしながら校内を歩いているのだが……。

見られてる。
ものすごく見られてる。

いや、もうあきらかにみんなの視線が私を見ている。
これは予想以上に恥ずかしい。

朋恵ほどでは無いが、それなりに腹筋を鍛えておいて良かった。

「あれ? えっと……澤野さん? でしたっけ?」
名前を呼ばれ振り向くと、永野先生の妹、恵那ちゃんがいた。

出来れば、知り合いには出会いたくないなと考えていたが、まさかいきなり出会うとは思わなかった。

呼び込みを初めてまだ5分と立っていない。

「あの…澤野さん。なんでそんな危ない恰好をしているんですか?」
「これには深い訳があってね」
さすがに永野先生のせいだとは言えなかった。

まぁ、永野先生から言わせれば、お土産を忘れた私のせいだと言いそうだが。

「で、恵那ちゃんは何をしてるのかな?」
「お姉ちゃんを探してるんですけど。携帯にも出てくれないし」
困っている恵那ちゃんに、駅伝部の模擬店の場所を教え別れる。

そこからさらに校舎をぐるっと一回りした時だった。

「澤野聖香? あなた何をしているのよ」
聞きなれた声が私の後ろからする。
もしかしたら今日は人生で一番最低の日なのかもしれない。

後ろを振り向くと、山崎藍子が立っていた。
かなり驚いた顔をしているが、驚きたいのはこっちの方だ。

さらに悪いことに、山崎藍子と同じ城華大付属高校陸上部の雨宮桂と貴島由香、さらには宮本さんまで立っていた。

みんな私の格好をみて目を輝かせている。

「澤野さんすごい恰好ね」
「素敵です。紘も喜びます」
「ちょっと見ない間に路線を変えたの?」
みんな好き勝手なことを言ってくる。

「なんで藍子がここにいるのよ」
山崎藍子にぐっと近づき、私は叫ぶ。

「仕方ないじゃない。桂が桂水高校まで文化祭を見に行きたいって言いだしたのよ。そしたら、由香も会いたい人がいるから行くって言いだして。桂水駅まで来たは良いけど、道が分からなくて、宮本さんが地元だったと電話したらこうなったの。それよりあなた……露出狂か何かなの?」

「これには深い訳があるの!」
苦笑いしながら藍子をキッと睨む。

「そう言えばこの前はありがとうね。小宮に聞いたけど、澤野すごいんだね。3000m障害で高校新とか。それも初出場でしょ?」
宮本さんの言葉を聞いて、城華大付属メンバーの動きが止まる。

「澤野聖香? 一体どういうこと? 意味がわからないんだけど。分かるように説明してくれるかしら」
山崎藍子が追及してくると、私が説明をする前に宮本さんが全てを語ってくれた。

「信じられない。そんなことって可能なの? だいたいあなた、私と勝負する前にそんなことを」
藍子は本当に悔しそうにしていた。相変わらずの負けず嫌いだ。
まぁ、その性格は決して嫌いではないのだが。

「でもそれを聞くと、澤野さんの今の格好がますます面白く感じます」
雨宮桂にまで笑われてしまう始末。
でもこのメイド服を着ている限り、何も言い返せないことを自分が一番理解していた。

と、携帯が鳴る。
この格好だと携帯を入れる場所も無かったため、アームバンドを利用して腕に付けていた。

電話は紗耶からだった。

「せいちゃん、今すぐ戻って来てほしいんだよぉ。大変、お店が回らないんだよぉ」
電話に出るなり、紗耶が悲痛の叫びをあげる。

「呼び込みは?」
「そんなもの、もういらないんだよぉ。お店はお客さんでいっぱいだからぁ。しかもせいちゃんを出せって言ってるんだよぉ」
なんだか、よく分からないが大変なのは伝わった。

「ちょっと私、模擬店に戻るから」
藍子にそれだけ言って、その場から逃げるように立ち去る。