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風のごとく駆け抜けて

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「いらっしゃいませ」
駅前のアーケード通りにある丸木文具店に入ると、店員の元気なあいさつが出迎えてくれた。

元気なあいさつのの主は、どこからどう見ても宮本さんだ。

県駅伝で戦った時よりも髪が伸び、茶色に染まっていたが、それ以外は何も変わっていなかった。

宮本さんもすぐにこちらに気付いたようだ。

「いつか来るだろうとは思ったけど……。まさか2人がセットで来るとは思わなかったわ」
私達2人を見て少しだけ苦笑いをする。

「まぁ、大体要件は分かってるけどね。まさか2人して消しゴムを買いに来たわけじゃないでしょ?」
今度は私達が苦笑いをする番だった。

「すいませ〜ん。会議室借ります」
レジに立っている男性店員に大声で声を掛け、宮本さんが店の奥へと私達を案内してくれる。

「適当に座ってて」
会議室のドアを開け、手で合図だけして宮本さんはどこかへ行ってしまう。

葵先輩と顔を見合わせ、言われたとおり中へと入り、椅子に座って待っていると宮本さんが3本ほど缶コーヒを持って帰って来た。

「で、2人はどこまで知っていて、何を聞きたいのかしら」
私達と向かい合うように座り、宮本さんが開口一番聞いてくる。

「正直知っているのは、加奈子先輩が大学を蹴ってここで働いてると言う事実だけですね」
葵先輩の説明に私も頷く。

「そっか。じゃぁ、最初から話した方が良いのか。都大路が終わってさ、大学の練習に参加し始めたのよ。城華大と城華大付属高校って、同じ敷地内に大学と高校さらには中学まであってね。高校と大学が使用している400mトラックが共用だから、練習場所は一緒で練習内容が違うって感じなんだけどね。それで卒業式までは普通に練習をこなしていたんだけど……。そこから突然体調を崩してね」

宮本さんは缶コーヒを開け一口飲むと、私達をみて苦笑いをする。
どんな反応を返して良いか分からず、私は身動きひとつ取れなかった。

「朝、ベッドで目を覚ますけど立てないのよ。最初は大学の練習がきつくて疲れてるのかなって思って、練習メニューを減らしてもらってたんだけど。日に日にどんどんひどくなってね。食欲は無くなるわ、吐き気はするわ、最後には寝れなくなってね。それが3月中旬あたり。そのころからかな? 走ること自体が嫌になったの。これから4年間、大学で走らないといけないって思ったら絶望しかなくて……。もう涙が枯れるんじゃないかってくらい大泣きしたりとかで。阿部監督と大学の監督、それから両親と病院の先生、私で色々話し合いをして……。結局大学に進学するの辞めちゃった」

そこまで話して宮本さんはまたコーヒーを飲む。

「今は大丈夫なんですか?」
私が聞くと宮本さんは優しく笑ってくれた。

「もう平気。どうも城華大学で走るってのが負担になってたようで。それを取り沿いて、実家に帰って5月中旬くらいまでゆっくり休んでたから。それにここで働いて体を動かしていると自分の中でどんどん元気になって行くのが実感できるの。あ、そうだ。記念にこれあげるわ」

宮本さんが私達の前に2枚の紙を出す。
よく見ると名刺だった。

『丸木文具店 文具担当 宮本加奈子』

名刺にはそう書かれ、お店の電話番号とファックス、それに宮本さんの携帯番号も記載されていた。

「いろいろあったんですね。でも加奈子先輩が元気そうでなによりです」
葵先輩の一言に私も笑顔で頷いた。

店を2人で出る時に、宮本さんは
「文具がいる時は是非うちで買ってね。あ、でも葵はいいけど、澤野って勉強とかしてるの?」
と随分きつい一言で送り出してくれた。

なんだろう。
やっぱり私って勉強をしてないように見えるのだろうか。