風のごとく駆け抜けて
「私も信徳館大を受験するつもりなんだけど。そこの栄養学部管理栄養科って言うのを卒業したら、管理栄養士の受験資格が貰えるし、熊本市内だからいいかなって思ってて……」
「つまり、私達って偶然にも志望校が同じってこと?」
私の一言にえいりんは嬉しそうに何度も頷く。
「よし、勉強に対するやる気が出て来た。さわのんも頑張って。せっかくだから一緒の大学に進学しようよ」
少し興奮気味になりながらえいりんが私に迫って来る。
えいりんがぐっと近づいたからだろう。
えいりんのお腹が鳴った音が良く聞こえた。
それと同時に顔を真っ赤にして、えいりんは私から離れる。
「えいりん昼飯食べてないの?」
私の一言にえいりんはちょっとムッとする。
「1500mの予選が10時40分からで、決勝が14時からだったんだよ。アップの時間とか消化時間を考えたら、その間に食べるのはきついでしょ!」
言われてみるともっともだ。
食後すぐに走るのは非常にきつい。
だから通常は食べてから2〜3時間後に走り出すのが常識とされている。
私も中学生の時にそう教わった。
試合の時のアップがレース開始1時間前から。
走り終わったらダウンもしなければならない。
個人差もあるがこれが30分くらい。
つまり、10時40分から1500mを走り、ダウンを行うと、もう11時30分近くになる。
そこから食事をとると、アップに間に合わなくなってしまう。
「まあ、カロリーゼリーぐらいは食べたけど。よし、さわのん。ご飯食べに行こう。せっかくだから熊本名物を食べさせてあげる」
よく考えると、昨年も今年も、姉とファミレスで御飯を食べたので、名物を何も食べていないことに気付く。
時計を見ると17時になったところだった。
少し早いが晩御飯と言うことでよいだろう。
カッパのいた本屋から、歩くこと10分。
それだけ歩いてもまだアーケードの中にいた。
なんとも長いアーケードだ。
途中、路面電車の通る道路を渡る。
どこかで見たことがあると思ったら、昨年初めて熊本に来た時に降りた路面電車の駅がある場所だった。
「さぁ、ここだよ」
えいりんに案内された場所は、どう見てもただのお土産屋さんだった。
一瞬戸惑う私を置いてえいりんは奥に入って行く。
仕方なくそれに続くと、奥には小さなテーブルが5つ程並んだ場所があった。
その一つに私達は座る。
お店の人が水を持って来ると同時にえいりんは、美味しいから食べてみてよと、2人分の料理を注文する。
料理名を聞いて一瞬ビックリしたが、そう言えば熊本の名物だったことを思い出す。
待ち時間もさほど無く、私達の前に料理が並ぶ。
「私、馬刺しは初めて」
そう。熊本名物と言えば馬肉だ。
ただ、山口県にいるとなかなか食べる機会もなく、まさにこれが初体験だった。
馬肉は予想以上に柔らかく、思ってたほど臭みも無く食べやすかった。
なにより美味しい。
えいりんはせっかくだからと、高菜チャーハン、からしれんこん、だご汁、太平燕を追加で1人前たのむ。それらを2人で分け合って食べる。
「まさか、ここまで熊本名物を堪能出来るなんて思わなかった。えいりんのおかげだよ。うちの姉なんて、今年もファミレスだったし。それに馬刺しなんて見る機会もそんなにないもんね」
しっかりと食べ、お腹いっぱいなり私は大満足だった。
だご汁と太平燕は見るのも初めてだったが、食べてみるとまた食べたいと思えるくらい美味しかった。
「まぁ、熊本ではスーパーに馬肉コーナーがあるくらいメジャーな食べ物なんだけどね」
甘い物は別腹だからと、さらに追加注文したいきなり団子を頬張り、えいりんが驚きの発言をする。
「それは嘘でしょ」
私もいきなり団子を頬張りながら疑いの返事をする。
あ、この団子、イモとあんこが入ってる。
「いやいや、ほんとだって。そうだ、お姉さんに聞いてみなよ。私も熊本に来た時にビックリしたもん」
えいりんに言われ、姉にメールを打つとすぐに返事が返っていた。
どうも偶然スーパーにいたらしく、証拠の写真まで添付してあった。
同じ日本でも、ここまで違うものかと私は素直に驚いてしまった。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻