(続)湯西川にて 36~最終回
「あれ。今、清子が居たような気がしたが、なんだ、ただの気のせいか。
どうした女将。目が真っ赤だぜ。
お前の目は、特別にでっかいから、特大のゴミでも目に入ったか?
いや、そうじゃねぇなぁ・・・・どう見ても。
泣きながら笑っているもの。なにか特別に良い事でも有ったんだろう。
鬼もたまには、人並みに泣くのか。それもまた、たまにはいい事だ。
じゃあ、表で酔いさましの夜風に当たってくるぜ。
いつものように、元気いっぱいで送り出してくれや。
いってくるぜい。女将!」
「はい。毎度のお越しをありがとうございます。
お気をつけて、いってらっしゃいませ。お足元にはお気をつけて。
無事のお帰りを、心より、おまちいたしております。
・・・・そうだよねぇ。
湯西川の鬼がこのくらいのことで、めそめそと
泣いている場合じゃございません。
泣きたくなんかないけれれど、清子と響の二人の、
あのいじらしい背中姿が、
なんだか、私をたっぷりと泣かせるんだよ・・・・。
でも、まだこの先も、まだまだたっぷりと、泣く羽目に
きっとなるんだろうなぁ。
芸者の清子も、それを承知で生まれてきた、あの一人娘の響も。・・・・
そしてそれを見守り続けていくこの私も、きっと。たぶん・・・・」
(続)湯西川にて ・完・
作品名:(続)湯西川にて 36~最終回 作家名:落合順平