火付け役は誰だ!(九番以降)
端的な概要:上から女の子が降ってきました。
「ちょおま待ていきな」
制止を促す俺の声は地球の重力加速を体で楽しんでいる穂子には届かなかったらしい、穂子の落下スピードはむしろ増す。
「やったよやったんだよ彦ーッッ!!!私ちゃんとやることしてきてから飛んだんだよご褒美ちょうだグプッ」
「良かった偉い偉い偉い!!終わったら摩擦で頭から火が出るくらい撫でてあげるから止まっゲフッ」
二人ともが口を閉ざした理由は明確。
口がきける状態ではなくなったからだ。
もう一度状況経過を考えてみるとまず穂子は四階からの自由落下、それき気づくのが遅れた俺が立ち上がったのは穂子が二階の高さまで落ちてきてから。
焦った俺は体を後ろに反らしていた、穂子は重力に任せて手を広げて落下してきていた。
そして穂子が俺にダイブした結果、お互いの口が封じられた。
…お気づきだろうか。
まだお気づきで無い方の為にもう少し説明を。
お互いの口が、『お互いの口によって』封じられた。
つまりは、だ
「ぬうころふこれくふおい!!!!!!」
我ながら意味不明な叫びを発しながら二人して地面を転がる。
もはや発した言葉が地救語で無かった理由は何度も言う通り穂子の唇で塞がれていたからだ。
それと穂子の着地(俺へ)の衝撃で穂子に俺の舌を軽く噛まれたのも原因の一つかもしれない。
色んな衝撃から立ち直るのに五秒かかりやっと現実に帰ってくる。
その当時の俺の貴重な第一声がこちら
「嘘おおおおおこんなこんなロマンチックのろの字もないファーストキス待ってえええええ!!!!!!」
頭を抱えながらの渾身の雄叫び、叫びすぎたのか若干の裏声。
その前代未聞の(マンション四階からの飛び降りによるキスは少なくとも俺は聞いたことがない)ファーストキスお相手の穂子はというと落下の衝撃で大きく後ろに転がった状態でピクピクしていた。
…衝撃は俺が全部受け止めたはずなので、おそらくこの不測の事態に対する意思表示なのだろう。
ただ俺のように精神的にダメージを受けているように見えないのは流石古来から人を色香(?)で惑わしてきた妖精と言うべきか。
いや、こんな事が起こって動揺しない存在を他に俺が知らないだけと言うべきか。
それはともかく
「ひ、彦…頭がぐわんぐわんするんだよ…」
「色々俺も頭が痛いからそれは納得の感想だが、今はそれよりやることがあるだろっつの、起きろッ!」
よっこらせと声を掛けながら脱力しきった穂子を助け起こす。
ぐにゃんぐにゃんしてこちらに体重を掛けてきているがこれは先ほど怪我したとかではない、ただ単にふざけているだけだ。
「…穂子、お前わざとやってるだろ。」
「何がー?」
前言撤回、無意識でしなだれかかっていただったようです、もっと悪質というかそこが怖いというか。
しかしこのように思春期的かつ複雑なキモチの俺を慮る事なく穂子は次の行動に。
「よーし!!遊んでないでちゃんとやることやろう!!!」
「お、おう、穂子がまともになった!?」
直接ではないが頭を打った影響か?と口に出したら間違いなく更なる二次被害を被ること間違いなしの考えが浮かぶが、懸命に止める。
というより今遊びって言ったなやっぱりわざとかお前。
「と言うわけで私やることやったから!後は彦に任せてちょっとお昼n」
「逃がさん。」
あくびをしながら結構な速度で逃走モーションに入るという器用な動きをしかけた穂子の首筋を鷲掴む、自分ながら中々の反応速度。
ともかくどこの草むらに消えていくかは知らないし、疲れているのも知っているが、この状況でのシエスタは許さん。
それに第一、二人で考えたこのピーナッツ作戦(※バタピー使用100%)には穂子の力を使わなくてはならない。
「もう一仕事、やることは分かってるだろ?」
「分かってるんけど、私だって疲れてるしあれやると疲れるんだよ!!」
「ここまできて止めたら何しに来たんだよってなるし早くしないと消防車来て色々怒られるぞ。…次のご飯は希望通りにするから。」
最後の一言が特に効いたらしい、もっとも他もまったくの嘘ではなく先程からサイレンの音が聞こえてくるのは確かだ。
目をキラッキラッさせながら穂子がこちらに振り向く、嫌な予感しかしない。
「ご飯!!!」
「…………そう。」
「むぅ仕方ない!それならば、やってみせよう、大々と!!とくと見てろよ上の二人共!!」
…季語もクソもない上に字余りな穂子心の一句。
何はともあれ穂子がやる気になったからには作戦スタートだ、勝った後のご飯よこせ云々は後だ後。
取られる食事の金額算用をしても仕方ない、ここは穂子に何をせがまれようと大丈夫な覚悟を固めるのみだ。
「ところで彦!!これっぽっちも何にも一点の曇りもなくご飯と関係ないんだけど!!!私実はフカヒレとフォアグラとキャビア!!…食べたこと無いんだ!!!!」
…状況を報告させていただきます、覚悟と家計と財布が突発性ブリザードにより凍死を迎えました。
方角は居候、風の強さは世界の高級食材ヘクトパスカル、至急、仕送りによる全面的支援を要求致します。
≡≡火付け役は誰だ!≡≡
作品名:火付け役は誰だ!(九番以降) 作家名:瀬間野信平