スペースデブリ撲滅キャンペーンの悲劇
ホタルはふうむと鼻を鳴らした。「止めて」とモジャモジャ頭の営業部員が手を伸ばしたときには遅かった。
「わかった」とホタルはうなずいてあっという間に作業は終了した。
4
「で、ああなったと」
「はい」
「ワタシの指示を待たずにやっちゃったと」
「申し訳ありませんっ」
モジャモジャ頭の営業部員は碓氷部長に土下座する。
「小癪とホタルとコインは?」
「逃げました」
「ほほう」と碓氷部長の目が吊り上がる。ひい、とモジャモジャ頭の営業部員は身を縮ませた。
「あいつらはまかせろ。モジャ毛はいいからアレを取れ」
管理営業課は電話にファックス、メール着信音であふれていた。
あわわ、とモジャモジャ頭の営業部員は受話器を取る。社員の罵声電話から仕事依頼の電話まで、数日間着信音は止まることがなかった。
何がいけなかったのか。
世界政府からのファックスか?
「たそがれるな。働けモジャ毛」
碓氷部長が投げつけた三角定規をかわしつつ、モジャモジャ頭の営業部員はモニターの地球を見た。
地球の大気には大きな橙色の雲が千切れることなく北半球の偏西風帯をたゆたっていた。
橙色の雲の形は会社のロゴマーク『RWM』。
社員の間でこの事件は『スペースデブリ撲滅キャンペーンの悲劇』として長く語り継がれることとなる。
(おわり)
作品名:スペースデブリ撲滅キャンペーンの悲劇 作家名:天川さく