dutrucave of ××××
静寂に包まれた中、あるはずのない『光』が廊下を照らし出す。
光源は、懐中電灯。
それを右手に持つのは、どこかあどけなさを残した少年。左手には道順を記した簡素な地図と、学園関係者が必ず持っているプラスチック加工がされている地図を重ねて持っている。
隣では、少年の目線位の背丈の少女が同じ地図をのぞき込んでいた。
「モカさん………やっぱり私、地図読めないです。案内、お願いします」
モカと呼ばれた、懐中電灯を持っている方は、少女の方を向く。
「構わないよー。でもまさか入り口近くで迷ってるとは思わなかったなあ。いつもはどうしてるの?」
にへへと笑う。
対して、少女───ユイは、ぱっと顔を赤くさせた。
「えっと………その、隠してた訳じゃ、ないんですけど………寮の同室の人と一緒にきてます。何回来ても覚えられなくて………」
そのままうつむいてしまう。
戦闘科の教室は、校舎の奥まったところ、地図がなければ普通の生徒でも迷うような場所にある。教室というか、戦闘科と魔法科共用の更衣室のようなものだが。
そもそも地図が読めなかったらしいユイは、二年前の入学式直後、校舎を出ようとしたところ迷った。一時間ほどさまよって、丁度案内精霊が気づかなければ『亡霊』と化していたのかもしれない、とぽつぽつと話した。
ちなみにユイは、この出来事のおかげで戦闘科で少々有名になったらしい。二年以上経った今は実力と共に下級生にも伝わっているようなので、困っているのだという。
「道に迷うなんて、恥ずかしい黒歴史でじゃないですか………」
暗い笑顔を見せる。
「ははは、学年で一二を争う実力者なのに道に迷うなんて、かわいいギャップじゃない。戦うだけよりよっぽどいいと思うよ、僕は………あ、そろそろ音楽室かな」
モカは、右手と首をぐるんぐるん回して音楽室の扉を探した。
苦もなく、それはすぐに見つかる。取っ手を引くと両開きの大きな扉は意外なほど軽く開いた。
音を吸収するらしい材質で作られた壁と種類様々な楽器が並べられた棚。明かりをつけていないため不気味な雰囲気を醸し出すそれを、懐中電灯で照らし出す。
金属特有の輝きが光る。
ルールに則って(のっとって)、二人は「メダル」を探し始めた。ちなみに、メダルは「外に出るためには絶対に必要」とルールにはかいてある。
普通教室二つか三つをぶち抜いて作られている音楽室は、それなりに広い。棚などを探しながら進んでいると、十分ほどかかって一番奥までたどり着いた。
「ない………ね。うーん、床とかかなあ」
「そうですね………でも、本当にメダルなんて置いてあるんでしょうか?そんなものがあったら先生たちが取り上げていると思うんですけど」
「どうなんだろうね?まあ、『ある』って書いてあるんだからあるんじゃないかな」
平然と答えると、反対側の壁を探しに移る。
こちらも目ぼしいものはなく、結局メダルを見つけられないまま入り口まで戻ってきた。
右手に懐中電灯をぶら下げたまま、モカがため息をつく。ユイも懐中電灯を取り出して、床などを見回すが、やはりそれらしいものは見つからない。
「前に行ってた人たちが持って行っちゃったとかかなあ。僕らの後ろにもいるのに………」
再びため息をつくと、今度はユイが動く。何かを見つけたようで、一直線に先ほど探し回った壁の方まで小走りになって向かった。
「あ、すみません………モカさんこれ」
目の前に懐中電灯を向けると、そこには、木製の扉があった。モカが手をぽんと叩く。
「………準備室!」
「床とかの方に集中していて気づいていませんでした。ここにあるって言うのは、ないですかね?」
「可能性はありそうだねー!」
言うが早いか、ノブをつかむとひねる。
中は、音楽室の半分位の広さ。そこに楽器やメンテナンス用具などが所狭しと並べられている。
軽く見回すが、メダルだとわかるような輝きはなかった。
モカは鼻を鳴らし、奥へ進み出す。ユイがぽけーっとそれを眺めていたが、我に返るとモカに倣う。
二人が一番手前の棚に差し掛かり、
「うわあああああああああ!!」
「ひええええ?!」
モカがひっくり返った。それに驚いたユイが懐中電灯を取り落とす。
慌てて懐中電灯を持ち直し、モカが見た先を照らす。そこには、げらげらと腹を抱えて笑う青年の姿があった。
「か、かえるううぅ………」
未だ正体を見ていないモカは震え声になってうずくまっている。
「モカさん………見てください。ライナーさんですよ」
「………えっ?」
呆れたように言うユイ。モカが驚き、ユイに照らされているライナーはというと、
「ぶはははははッ!お前、面白すぎるッ!!」
爆笑である。
「………ライナーああぁぁぁ!!」
怒ったモカがスパーンとライナーの頭をぶっ叩く。予想外に堪えたのか笑いの余韻もあるのか、ライナーは床に倒れた後ぴくぴく動いていた。
「ったく、馬鹿かこいつは………」
前から新たな声。
頭を掻きながら出てきたのは、小柄な少年。背丈は、ユイの目線までない位。コンプレックスであるらしい。
今まで見えなかったが、幻惑魔法か何かで姿を消していたのだろう。もう少し奥の方にはぱりぱりと菓子を頬張っているのもいた。
モカが頭に手を置く。
「ははー、キリクちっちゃー」
子供にするように、くしゃくしゃ撫でた。キリクはその手を乱暴に払う。
「俺は子供じゃねえ!!」
「えーだって、キリクの頭手置きやすいだもん」
「一応お前より年上だ………おいレイヴィ、行くぞ」
レイヴィは頬をもので膨らませたまま立ち上がる。
キリクはライナーを蹴り飛ばしてから飛び越えて準備室の入り口まで戻る。出る直前で後ろを振り返り、
「お前らが探してたメダルだが、ライナーが持ってる。めんどくせえからお前らにまかせるぞそいつは」
言い残して姿が見えなくなった。
レイヴィはもごもごと口を動かし、まとめて飲み込んでからひらひら手を振ってきた。
「………ユイ………モカ。またあとでね」
声は小さい。
二人は手を振り返し、レイヴィがパンを口に放り込みながらのろのろと出て行くのを見送った。
「………さて。どうする?」
数分後、床に伸びているライナーを見下ろしつつモカが切り出す。先ほどの蹴りも相当効いたのか、ぴくりとも動かない。
「とりあえず起こしましょう。一人だけにするわけにも、このままにしていくわけにもいきませんし」
取り敢えず揺すってみる。起きない。
数分それを続けるが、頑固なほどに起きようとしないライナー。
すると段々苛ついてきたのか、ユイが醒めた目で腰の小太刀を鞘ごと引き抜く。
「起きなさい」
「んがッ!?」
鳩尾に叩き込んだ。
「さっさと起きないと次は斬ります」
口調は変わらないが、怒気が立ち上っている気がする。
それを見たライナーがさっと青ざめる。
「うわ、わ、悪い悪い!別に悪意あってのことじゃねえよ!」
両手を上げぶんぶん振りながら『降参だ』のジェスチャー。ユイは険しい表情を変えずに小太刀を元に戻す。
「後がつかえているんです。早くメダル下さい」
「そうだよライナー!さっきキリクがメダルはライナーが持ってるって言ってたよ!」
ユイとモカの声で立て続けに問いただされる。
光源は、懐中電灯。
それを右手に持つのは、どこかあどけなさを残した少年。左手には道順を記した簡素な地図と、学園関係者が必ず持っているプラスチック加工がされている地図を重ねて持っている。
隣では、少年の目線位の背丈の少女が同じ地図をのぞき込んでいた。
「モカさん………やっぱり私、地図読めないです。案内、お願いします」
モカと呼ばれた、懐中電灯を持っている方は、少女の方を向く。
「構わないよー。でもまさか入り口近くで迷ってるとは思わなかったなあ。いつもはどうしてるの?」
にへへと笑う。
対して、少女───ユイは、ぱっと顔を赤くさせた。
「えっと………その、隠してた訳じゃ、ないんですけど………寮の同室の人と一緒にきてます。何回来ても覚えられなくて………」
そのままうつむいてしまう。
戦闘科の教室は、校舎の奥まったところ、地図がなければ普通の生徒でも迷うような場所にある。教室というか、戦闘科と魔法科共用の更衣室のようなものだが。
そもそも地図が読めなかったらしいユイは、二年前の入学式直後、校舎を出ようとしたところ迷った。一時間ほどさまよって、丁度案内精霊が気づかなければ『亡霊』と化していたのかもしれない、とぽつぽつと話した。
ちなみにユイは、この出来事のおかげで戦闘科で少々有名になったらしい。二年以上経った今は実力と共に下級生にも伝わっているようなので、困っているのだという。
「道に迷うなんて、恥ずかしい黒歴史でじゃないですか………」
暗い笑顔を見せる。
「ははは、学年で一二を争う実力者なのに道に迷うなんて、かわいいギャップじゃない。戦うだけよりよっぽどいいと思うよ、僕は………あ、そろそろ音楽室かな」
モカは、右手と首をぐるんぐるん回して音楽室の扉を探した。
苦もなく、それはすぐに見つかる。取っ手を引くと両開きの大きな扉は意外なほど軽く開いた。
音を吸収するらしい材質で作られた壁と種類様々な楽器が並べられた棚。明かりをつけていないため不気味な雰囲気を醸し出すそれを、懐中電灯で照らし出す。
金属特有の輝きが光る。
ルールに則って(のっとって)、二人は「メダル」を探し始めた。ちなみに、メダルは「外に出るためには絶対に必要」とルールにはかいてある。
普通教室二つか三つをぶち抜いて作られている音楽室は、それなりに広い。棚などを探しながら進んでいると、十分ほどかかって一番奥までたどり着いた。
「ない………ね。うーん、床とかかなあ」
「そうですね………でも、本当にメダルなんて置いてあるんでしょうか?そんなものがあったら先生たちが取り上げていると思うんですけど」
「どうなんだろうね?まあ、『ある』って書いてあるんだからあるんじゃないかな」
平然と答えると、反対側の壁を探しに移る。
こちらも目ぼしいものはなく、結局メダルを見つけられないまま入り口まで戻ってきた。
右手に懐中電灯をぶら下げたまま、モカがため息をつく。ユイも懐中電灯を取り出して、床などを見回すが、やはりそれらしいものは見つからない。
「前に行ってた人たちが持って行っちゃったとかかなあ。僕らの後ろにもいるのに………」
再びため息をつくと、今度はユイが動く。何かを見つけたようで、一直線に先ほど探し回った壁の方まで小走りになって向かった。
「あ、すみません………モカさんこれ」
目の前に懐中電灯を向けると、そこには、木製の扉があった。モカが手をぽんと叩く。
「………準備室!」
「床とかの方に集中していて気づいていませんでした。ここにあるって言うのは、ないですかね?」
「可能性はありそうだねー!」
言うが早いか、ノブをつかむとひねる。
中は、音楽室の半分位の広さ。そこに楽器やメンテナンス用具などが所狭しと並べられている。
軽く見回すが、メダルだとわかるような輝きはなかった。
モカは鼻を鳴らし、奥へ進み出す。ユイがぽけーっとそれを眺めていたが、我に返るとモカに倣う。
二人が一番手前の棚に差し掛かり、
「うわあああああああああ!!」
「ひええええ?!」
モカがひっくり返った。それに驚いたユイが懐中電灯を取り落とす。
慌てて懐中電灯を持ち直し、モカが見た先を照らす。そこには、げらげらと腹を抱えて笑う青年の姿があった。
「か、かえるううぅ………」
未だ正体を見ていないモカは震え声になってうずくまっている。
「モカさん………見てください。ライナーさんですよ」
「………えっ?」
呆れたように言うユイ。モカが驚き、ユイに照らされているライナーはというと、
「ぶはははははッ!お前、面白すぎるッ!!」
爆笑である。
「………ライナーああぁぁぁ!!」
怒ったモカがスパーンとライナーの頭をぶっ叩く。予想外に堪えたのか笑いの余韻もあるのか、ライナーは床に倒れた後ぴくぴく動いていた。
「ったく、馬鹿かこいつは………」
前から新たな声。
頭を掻きながら出てきたのは、小柄な少年。背丈は、ユイの目線までない位。コンプレックスであるらしい。
今まで見えなかったが、幻惑魔法か何かで姿を消していたのだろう。もう少し奥の方にはぱりぱりと菓子を頬張っているのもいた。
モカが頭に手を置く。
「ははー、キリクちっちゃー」
子供にするように、くしゃくしゃ撫でた。キリクはその手を乱暴に払う。
「俺は子供じゃねえ!!」
「えーだって、キリクの頭手置きやすいだもん」
「一応お前より年上だ………おいレイヴィ、行くぞ」
レイヴィは頬をもので膨らませたまま立ち上がる。
キリクはライナーを蹴り飛ばしてから飛び越えて準備室の入り口まで戻る。出る直前で後ろを振り返り、
「お前らが探してたメダルだが、ライナーが持ってる。めんどくせえからお前らにまかせるぞそいつは」
言い残して姿が見えなくなった。
レイヴィはもごもごと口を動かし、まとめて飲み込んでからひらひら手を振ってきた。
「………ユイ………モカ。またあとでね」
声は小さい。
二人は手を振り返し、レイヴィがパンを口に放り込みながらのろのろと出て行くのを見送った。
「………さて。どうする?」
数分後、床に伸びているライナーを見下ろしつつモカが切り出す。先ほどの蹴りも相当効いたのか、ぴくりとも動かない。
「とりあえず起こしましょう。一人だけにするわけにも、このままにしていくわけにもいきませんし」
取り敢えず揺すってみる。起きない。
数分それを続けるが、頑固なほどに起きようとしないライナー。
すると段々苛ついてきたのか、ユイが醒めた目で腰の小太刀を鞘ごと引き抜く。
「起きなさい」
「んがッ!?」
鳩尾に叩き込んだ。
「さっさと起きないと次は斬ります」
口調は変わらないが、怒気が立ち上っている気がする。
それを見たライナーがさっと青ざめる。
「うわ、わ、悪い悪い!別に悪意あってのことじゃねえよ!」
両手を上げぶんぶん振りながら『降参だ』のジェスチャー。ユイは険しい表情を変えずに小太刀を元に戻す。
「後がつかえているんです。早くメダル下さい」
「そうだよライナー!さっきキリクがメダルはライナーが持ってるって言ってたよ!」
ユイとモカの声で立て続けに問いただされる。
作品名:dutrucave of ×××× 作家名:湊穂